オンライン・ショッピング事業者として注意しておくべき事項
本コラムでは、インターネット上のオークション事業者やショッピング・モール事業者等の「場の提供者」である事業者が注意しておくべき事項について検討する。なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係である。
オンライン・ショッピングの現在の状況等
オンライン・ショッピングの市場規模
日本における消費者向け電子商取引の市場規模は、平成19年度で約5兆3440億円となり、前年比で21.7%増となっている(※1)。また、日本における消費者を起点としたインターネット関連ビジネス市場規模は、平成19年度で1兆9720億円になっている(※2) 。そして、オンライン・ショッピングの一つであるインターネット・オークションの市場規模等について、株式会社野村総合研究所が、平成17年度に1兆1400億円である市場が、平成18年度には1兆6200億円、平成22年度には2兆8000億円に膨らんでいくと予測している(※3)。
このようにオンライン・ショッピングの市場規模は、今後拡大していくことが予想され、光が差すところには影が生じるとの言葉通り、市場規模の拡大にともなって、オンライン・ショッピング取引に関するトラブルも増加していくと考えられる。
サイバー犯罪に関する検挙・相談状況
警察庁が平成22年3月4日付けで発表した平成21年におけるサイバー犯罪の検挙状況等(※4) によると、警察の要請を受けた大手事業者が、受取り後決済サービス等を導入したことが功を奏し、ネットワーク利用詐欺の検挙件数は、前年度よりも減少している(1,280件、前年比-228件、-15.1%)。また、インターネット・オークション利用詐欺についても検挙件数が減少している(522件、前年比-618件、-54.2%)。もっとも、ネット犯罪に占める割合としては、ネットワーク利用詐欺が犯罪類型の中では最も多い状況となっているし、平成21年中に都道府県警察の相談窓口で受理したサイバー犯罪等に関する相談件数についてみると、「詐欺・悪質商法」(40,315件、前年比+2,521件、+6.7%) に関する相談は増加しているので、未だネットワーク利用詐欺は、今後も注意すべきサイバー犯罪の一つといえる。
※1 「電子商取引レポート2007」,経済産業省商務情報政策局情報経済課編,p42.
※2 「平成19年度我が国のIT利活用に関する調査研究」(電子商取引に関する市場調査)の結果公表について(補足説明)
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/h19chosa/h19kouhyou-hosoku.pdf
※3 http://www.nri.co.jp/news/2005/051215.html
※4 平成21年におけるサイバー犯罪の検挙状況等
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h21/pdf54.pdf
トラブル解決に際しての問題点
オンライン・ショッピングにおけるトラブル事例としては、上記のような購入した商品が届かないといった詐欺事案の他、配送された商品が壊れていたような場合、サービスの内容に不備があったような場合、購入した商品と違う商品が配送された場合、又はサービスの内容が違っていたような場合がある。こういったオンライン・ショッピングにおけるトラブルが発生した場合、法的には、現実社会における場合と同様に、当然に損害賠償請求を行ったり、売買契約の無効を主張したり、売買契約の取消又は解除をしたりすることが可能である。
しかし、オンライン・ショッピングの特性上、売主にとって必須の情報は、商品等の届け先である買い手の現実社会での氏名・住所等であるが、買主にとって必須の情報は、売主に対する代金の支払先・支払方法等であり、売主の現実社会における氏名・住所等は、必須の情報ではない。
それ故、特にCtoC取引の場合、買主が、売主のハンドル名及び電子メールアドレス等を知っていても、売主の現実社会における氏名・住所等を知らないことがあり得る。
もっとも、事業者が指定商品をインターネットにおいて販売する場合については、特定商取引法上の通信販売に該当するので、その場合は、サイト内に販売業者名、住所、電話番号等を表示する義務があるため(特定商取引に関する法律11条、同法施行規則8条)、BtoC取引の場合には、基本的には、売主の氏名・住所等は判明していると考えられる。
しかし、オンライン・ショッピングを利用して詐欺等を行おうとする者は、虚偽の情報を申告する等して、当初から責任追及をされにくいように行動すると考えられる以上、オンライン・ショッピングにおける詐欺事案の場合においては、BtoC取引であるかCtoC取引であるかにかかわらず、売主の現実社会における氏名・住所等がわからないという事態が起こり得ると考えられる。
このように、相手方の現実社会における氏名・住所等がわからない場合、どのような不都合が生じるかというと、例えば、訴えを提起して損害賠償請求訴訟を起こそうと考えた場合、訴状の必要的記載事項として、自然人の場合はその氏名と住所を、法人の場合は名称・商号と主たる事務所・本店の所在地を記載して特定することが必要とされている(民事訴訟規則2条1項)。
そこで、オンライン・ショッピング上でのトラブル事案について、訴訟を利用して解決したくとも、相手方の氏名・住所等がわからない場合、そもそも、裁判所に対する訴え提起ができないことになってしまう。
つまり、オンライン・ショッピング上でのトラブル事案について、理論的には、相手方に対する損害賠償請求等の手続きを取ることが可能であっても、事実上、紛争解決の手続きを取ることが困難であることがあり得るということである。
もちろん、相手方の現実社会における氏名・住所等を知るために、相手方のIPアドレス又はメールアドレスをもとにして、相手方が契約しているプロバイダを特定し、当該プロバイダに対して、弁護士会照会に基づく開示請求(弁護士法23条の2)を行う方法がある。しかし、最近、個人情報保護法の影響で、情報開示を拒否する事案も増えている。
また、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権(同法4条1項)に基づいて、相手方が契約しているプロバイダに対して、相手方の氏名・住所等の情報を開示させることも考えられる。
しかし、同条項の要件を充たすためには、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害」されることが必要であり、「情報の流通によって」権利を侵害されるとは、情報の流通自体が直ちに権利侵害となる場合に限られるというのが立法者の意図である。したがって、通常の売買契約において、商品に瑕疵が存在した場合等については、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権を行使することは困難と考えられる。また、発信者情報が個別の通信情報に該当することから、通信の秘密に該当するという問題点もある。
「場の提供者」である事業者に対する責任追及
上記のように、詐欺等の相手方を特定して責任追及をすることが困難な場合、被害者の立場としては、逃げ隠れのできない「場の提供者」であるオンライン・ショッピング事業者に対し、責任追及をしていくことが考えられる。実際、インターネット・オークションの事例において、詐欺被害にあった利用者らが集団でオークション事業者に対して損害賠償請求を行った事例がある。
この件について、名古屋地裁は、オークション事業者に欠陥のないシステムを構築してサービスを提供する義務を認めたものの、義務違反はないとして利用者らの請求を棄却した(名古屋地判平成20年3月28日判時2029号89頁。以下、「本判決」という。)。次に、名古屋高裁は、地裁判決を踏襲して利用者らの控訴を棄却した(名古屋高判平成20年11月11日裁判所HP)。そして、最高裁判所も、上告棄却及び上告不受理の決定を下し(最判平成21年10月27日判例誌未登載)、本件裁判は終了した。
事業者の法的義務の有無
本判決で認められたオークション事業者の法的義務は、以下のとおりである。まず、本判決は、一般的には、事業者は利用者に対し、欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき信義則上の義務を負っているとして、オークション事業者に対して安全なサービスの提供義務が存在することを肯定した。
その上で、本判決は、事業者には「利用者が詐欺等の被害に遭わないように、犯罪的行為の内容・手口や件数等を踏まえ、利用者に対して、時宜に即して、相応の注意喚起の措置をとるべき義務があ」るとして、注意喚起義務が存在することを認めた。
もっとも、本判決は、その他の義務である信頼性評価システムの導入義務、出品者情報の提供・開示義務、エスクロー・サービスの利用を義務づける義務、補償制度の充実義務については否定した。
事業者の注意喚起義務違反の有無
結果としては、オークション事業者の責任は認められなかったが、事業者に欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務があると判断されていることから、インターネット・オークション事業者及びインターネット・モール事業者等の「場の提供者」である事業者は、裁判で認定された事業者の法的義務につき、注意をする必要があるといえる。ちなみに、現在のYahoo!オークションの場合、インターネットオークション詐欺被害等を防止するために、様々な情報を記載したコンテンツのページを設けている(※5)。
また、原告らが被害を受けたとされる時期においても、「C オークションをより楽しむために」、「報告されているトラブルの例」、「ネット取引事件簿」、「確認しよう!7つのポイント」等のページが設けられており、トラブル回避策、エスクローサービスの利用推奨、インターネットオークションを利用した犯罪の紹介等を行うとともに、トラブルが報告されている振込口座を公開し、注意喚起を行っていたようである。
現段階における事業者の対応としては、本判決からすると、犯罪行為の内容や手口についての事例を紹介することで注意喚起義務の履行としては充分であると判断されているようである。
しかし、インターネットに関する社会情勢、関連法規、システムの技術水準、システムの構築及び維持管理に要する費用、システム導入による効果、システム利用者の利便性等の各要素は、時間の経過とともに変化していくものであるため、今後、事業者としては、上記のような注意喚起義務の履行だけでは義務違反になる可能性があることにも十分留意しておく必要がある。
※5 Yahoo! オークション「トラブル対策や最新情報をご紹介!」 http://auctions.yahoo.co.jp/phtml/auc/jp/notice/trouble/
インターネット上のショッピング・モールの場合との比較
本判決は、インターネット・オークション事業者についてのものであるが、ショッピング・モール事業者やその他の「場の提供者」である事業者の法的責任を考える上でも参考になると考えられる。インターネット・オークションの場合、出品する商品毎に、出品者と落札者とがオークション事業者のシステムを利用して取引を行うのに対し、ショッピング・モールの場合は、ショッピング・モール事業者に対して出店料を支払うことによって、同事業者のサイト内に出店することができ、継続的にショッピング・モールのシステムを利用して取引を行うことができる。
この点が、インターネット・オークションとショッピング・モールの構造的な違いといえる。
また、ショッピング・モール事業者は、出店希望者からの申し込みを受けた場合、出店希望者の本人確認、出店する業種等を事前に審査することが可能であるし、事後的に、モール・サイトが公序良俗に反しているかどうか、虚偽の情報が記載されているかどうか、及び薬事法ないし特定商取引法等の法令を遵守しているかどうか等を審査することも可能である点で異なっている。
本判決では、信義則上、欠陥のないシステムを構築して、安全なサービスを提供する義務があると判示されているところ、ショッピング・モールの場合、システムの構造として、当然に継続的な取引が想定されている上、ショッピング・モール事業者が、出店希望者に対する事前及び事後の審査を行うことが可能であることから、ショッピング・モール事業者の場合の方が、インターネット・オークション事業者よりも義務の程度が厳しくなるものと考えられる。
なお、システム利用約款中に事業者の免責条項を規定しておくことで、事業者に対する義務違反に対処する方策が考えられるが、一切の責任を負わないという立場を主張することは困難と考えられる。
本判決においても、「そのような記載をしたからといって、まったく責任を負わなくてもよいというものではなく、信義則上、安全なサービス提供義務を負う」ものと判示して、事業者の免責条項をそのまま適用しなかった。
したがって、システム利用約款において、事業者の免責条項を規定していたとしても、個別の事情により、裁判所が合理的意思解釈ないしは信義則に基づく本件ガイドラインの補充的解釈を行って、当該システム利用約款の内容を合理的に修正することが考えられ、必ずしも約款に規定されているとおりの免責の効果が発生する訳ではないことにも注意しておくべきである。
















