国際的裁判管轄について

国際的裁判管轄について

インターネットの利用が拡大し、インターネットを介した契約紛争やインターネットを通じた不法行為等が増えてきており、それらの当事者が居住する国が異なっている場合がある。
このような異なる国にまたがる紛争の場合、どの国が裁判をなす権限があるのかという裁判管轄の問題が生じる。そこで、今回は、国際的裁判管轄について検討する。
なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係である。

裁判管轄とは

インターネットの利用が世界的に拡大していることから、インターネットを介しての契約締結がなされた場合や不法行為がなされた場合、争う相手方が海外の人や会社だったりすることがある。

このように、インターネットの普及によって、国境を越えた紛争が発生した場合、複数の国の裁判所や法律が関係してくることになる。

具体的には、当該事件につき、どの国が裁判をなす権限を有するかという問題のことを国際的裁判管轄の問題という。

国内裁判管轄についての規律

国際的裁判管轄について検討する前に、国内における裁判管轄について、どのようなルールが設けられているかを見てみる。

現在の我が国では、民事訴訟法(以下、「民訴法」という。)第4条ないし第22条において、管轄に関するルールが規定されている。

具体的には、第4条(普通裁判籍)、第5条(特別裁判籍)、第6条(知的財産権に関する管轄)、第7条(併合請求における管轄)、第11条(管轄の合意)、第12条(応訴管轄)、第13条(専属管轄の場合の適用除外)、第16条ないし第22条(移送)についての規定がある。

しかし、民訴法には、国際裁判管轄についての明文の規定は設けられていない。

国際裁判管轄と国内裁判管轄の違い

国内裁判管轄の問題の場合、訴訟が提起された後においても、移送制度(民訴法16条ないし22条)を柔軟に活用することで、適切な管轄地の裁判所に事件を移すことができる。

しかし、国際裁判管轄が問題となる事例の場合、国内の裁判所から外国の裁判所へと事件を移送するこができないため、国内の裁判所での管轄が否定された場合、その事件の当事者は、言語、司法制度、訴訟手続等が異なる他国において訴訟遂行をしなければならないこととなる。

そこで、国際的裁判管轄の判断が当事者に与える影響は、国内裁判管轄の問題よりも、非常に大きいといえる。

他国における国際的裁判管轄の状況

国際的裁判管轄の問題に関しては、例えば、「民事及び商事に関する裁判管轄並びに判決の執行に関する条約」、「EC・EFTAの裁判管轄及び判決の執行に関するルガノ条約」及び「民事及び商事事件における裁判管轄及び裁判の執行に関する2000年12月22日の理事会規則(EC)44/2001」がある。

これらの条約及び規則は、同一の基本原則を根拠としており、類似する内容の規定を多数含むものとなっている。

つまり、ヨーロッパ諸国間においては、適用される条約等が単一とはいえないものの、ほぼ共通のルールに基づいて国際裁判管轄が判断されている状況にあるといえる。

これに対し、我が国の場合、現在のところ、上記のような多数国間条約や、二国間条約は存在していないため、条理によって個別事件の実情にあわせて国際的裁判管轄を決定しているのが現状である。

もっとも、法制審議会国際裁判管轄法制部会において、民訴法の中に国際的裁判管轄に関する規定を設けることが検討され、平成22年2月5日、同部会から法務大臣宛に「国際裁判管轄法制の整備に関する要綱」が答申されたところである(http://www.moj.go.jp/content/000033486.pdf)。

国際的裁判管轄

消費者契約としての性質

契約を例に考えてみると、国際的裁判管轄は、原則として、契約と最も密接に関連する地を裁判管轄とすることになっている。

しかし、インターネットを介して契約締結がなされた場合、当事者の所在地、契約の締結地等の場所的要素は希薄であるといえ、場所的関連性を基準として国際的裁判管轄を考えることには若干無理があるといえる。

また、インターネットを介して締結された契約の多くは、誰でもアクセスできるオープンなネットワークを利用し、かつ不特定多数の者との契約締結が想定されていることが多い。つまり、消費者契約としての性質を有しているといえるので、国際的裁判管轄を考える上でも、消費者保護の観点からの特別な配慮をする必要がある。

2 相手方の住所地の国際的裁判管轄

紛争の相手方の住所地を管轄とすることは、裁判管轄に関する基本的な原則として認められている。

そして、国際的裁判管轄においても、相手方の住所地を裁判管轄とすることは、事件の種類を問わない原則的管轄であると考えられている。

例えば、米国に住むA氏と、フランスに住むB氏との間で、インターネットを介して売買契約を締結した場合を例にすると、米国在住のA氏が、B氏を訴えようとする場合、フランス国を裁判管轄にすることは認められるということである。

しかし、異なる国に居住する相手方を訴えようとする場合、言語、司法制度、訴訟手続等が異なる他国において訴訟遂行をするよりは、自国において訴訟提起をすることができた方が有利であるし簡便でもある。

そこで、相手方の住所地以外の国際的裁判管轄を考える必要がある。

義務履行地の国際的裁判管轄

契約に関連した紛争の場合、ローマ法以来の伝統的な契約の裁判籍に由来する契約義務の履行地を管轄とする考え方がある。

国内裁判管轄を規定した民訴法5条1号においても、義務履行地に財産法上の訴え一般の管轄を認める規定がある。

国際的裁判管轄の場合、学説・判例上は議論が分かれているものの、インターネットを介して商品を購入した場合、上記で述べたような消費者保護の観点から、原則として、商品を実際に買主が受領した地を裁判管轄とする考え方が有力である。

例えば、ホテルの宿泊や航空券の予約等のように、特定の場所でのサービスの供与を目的とする契約の場合、一般的には、当該サービスの供与を受ける目的地に裁判管轄を認めることができる。

もっとも、ソフトウェア及び音楽の販売や、ニュースの配信契約等のように、買主のコンピューターに直接に情報材が供給される場合、すなわち、契約の締結だけでなく、契約の履行もインターネット上でなされる場合については、別途検討を要する。

ソフトウェアの販売等は、一般にライセンス契約とされていることから、買主のコンピューターに直接に情報材が供給されるような場合、履行地は、情報材のダウンロード先となるコンピューターの所在地と考えて、その地を裁判管轄として認めることができると考える。

不法行為の国際的裁判管轄

すでに述べたように、インターネットの利用が拡大するとともに、サイバー社会における不法行為の事例も増加している。このサイバー社会における不法行為における特徴としては、加害行為が行われる場所と、被害結果が発生する場所とが離れ、それぞれの地が異なる国にまたがっていることである。

また、加害行為は一つであるが、被害結果が次々に拡散して広がって発生するタイプのものもある。例えば、ウィルスやワームを送りつけて、それが広まっていく場合や、名誉毀損や信用毀損行為を行って、それが世界中に広まっていくような場合等である。

このような場合、そもそも加害行為地を特定することが困難なことが多いため、結果的に、被害結果発生地を中心にして管轄を考えていく必要性が生じることになる。

一般に、国際的裁判管轄に関しては、加害行為地と被害結果発生地のどちらにも、不法行為地管轄が認められている。日本の裁判例においても、国際的な製造物責任の事例ではあるが、原則として、欠陥製品の製造地と、欠陥による損害発生地の両方を不法行為地として管轄を認めたものがある(東京地判昭和59年3月27日判時1113号26頁)。

具体的には、インターネットを利用してウィルスやワームをアップロードした場所が加害行為地となり、実際に当該ウィルスやワームによって機能破壊されたり侵入されたコンピューターの所在地が被害結果発生地ということになる。

この場合、被害者は、加害者の住所地を裁判管轄にできるのは当然として、その他の裁判管轄として、被害を受けた自己のコンピューターの所在地国の裁判所に対し、損害賠償請求訴訟を提起できることになる。

最後に

我が国における国際的裁判管轄を判断する一般的な考え方は、以上のとおりである。

しかし、実際に国際的裁判管轄を判断するのは、それぞれの国によって異なることから、外国の裁判所に訴えを提起する場合や、逆に訴えられたような場合、上記の我が国における国際的裁判管轄のルールが必ずしも妥当しないことがある。

実際に国際的な紛争が起こりそうな場合には、できるだけ早く、専門家へ相談するようにしていただきたい。
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山根 義則(やまね よしのり)

弁護士

1972年福岡県生まれ。1996年九州大学工学部情報工学科卒業。2006年弁護士登録。2007年九州大学大学院システム情報科学府情報工学専攻博士後期課程に飛び級入学。暗号理論と情報セキュリティの研究に従事し、その後弁護士となる。弁護士として、事業再生、M&A、税務訴訟、住民訴訟、知的財産コンサルティング等の案件を扱う。研究者としては、電子商取引、電子マネー等の情報セキュリティに関する研究に従事する。法律と技術との架け橋となること、クライアントのニーズに対して戦略的解決を図ることに注力している。

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