サイバー社会での「なりすまし」について
サイバー社会での取引は、いわゆる非対面型の取引であることから、他人になりすまして、取引を行うことが容易である。そこで、今回は、本人が知らない間に、第三者に本人名義での取引をされてしまったような「なりすまし」の事例について検討する。
なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であって、筆者の所属組織とは無関係であることに注意されたい。
「なりすまし」とは
そもそも、「なりすまし」とは、他人を装って、当該他人名義での取引等を行うことをいう。サイバー社会の場合、現実社会の場合と異なり、客と店員とが直接対面することなく、商品等の購入をすることが可能である。このように、サイバー社会においては、他人を装って、他人名義での取引等を行う、なりすまし契約をすることが容易である。
ただ、その購入した商品等がデジタルコンテンツではなく、現物の商品等である場合、当該商品等を送付するための住所等に関する情報を店側に提供する必要性があるのはもちろんである。
なりすましの契約において検討すべき契約関係としては、
①なりすまされた者(被害者)vs販売店」の法律関係
②なりすまされた者(被害者)vsクレジットカード会社等(決済会社)」の法律関係
の大きく2つに分けることができる。以下、上記①及び②について検討する。
①「被害者vs販売店」の法律関係
原則的な法律関係
一般的に、契約とは、対立する異なる2個以上の意思表示の合致によって成立する、債権の発生を目的とする法律行為であると言われる。例えば、他人名義を装って、なりすました者が「このパソコンを売ってくれないか。」という申込みの意思表示をした場合、「このパソコンを売ってくれないか。」という申し込みの意思表示は、なりすました者の意思表示ではあるが、なりすまされた者(被害者)の意思表示ではない。
つまり、被害者の申込みの意思表示がない以上、販売店との間において、意思表示の合致もないことになり、それ故、被害者と販売店との間には、契約関係は成立しないことになる。
したがって、被害者と販売店との間に、売買契約は成立しないのが原則である。
例外的な法律関係
(もっとも、常に被害者と販売店との間に売買契約が成立しないのではなく、一定の事情がある場合には、例外的に売買契約が成立することもある。このような例外的な場合を、法律的に、表見代理の適用又は類推適用と呼んでいる。表見代理の適用又は類推適用
民法109条、110条、112条において、表見代理の規定が設けられており、一般には、①代理権限があるかのような外観があり、②販売店が代理権限がないことについて知らない場合又は知らないことについて過失がない場合(善意無過失の場合)であり、③外観の作出について本人に帰責性がある場合には、例外的に取引の相手方は保護されることになっている。例えば、Amazonにおいて書籍を購入する場合を例にすると、次のようになる。まず、アリスが、ボブに対して、AmazonでのアリスのID及びパスワードを教えていたとする(上記③の本人の帰責性があることになる。)。
このような場合、ボブがアリスのID及びパスワードを使って、Amazonにログインし、書籍を購入したとする(上記①の代理権限があるかのような外観があることになる。)。そして、Amazon側は、ログインしてきたボブを「アリス」だと思っているのであるから(上記②の善意無過失の場合にあたる。)、結局、例外的に、アリスとAmazonとの間で、書籍の売買契約が成立することになる、ということである。
もちろん、アリスが、ボブに対して、AmazonでのアリスのID及びパスワードを教えているようなことは、一般的にはあり得ないことかもしれないので、上記具体例は、机上の空論といえるかもしれない。
しかし、アリスがAmazonでのID及びパスワードを手帳にメモしておいて、それを見たボブによって書籍の購入をされた場合はどうであろうか。
ここは、上記③の本人の帰責性の程度として考慮される事情である。例えば、アリスとボブが家族であってIDやパスワード等の管理を委託していた場合には、アリス側に帰責性がある方向の事情になる。また、アリスがIDやパスワードをパソコンのディスプレイに付箋で貼っていたような場合にも、アリス側に帰責性がある方向の事情になる。
②「被害者vs決済会社」の法律関係
「被害者vs販売店」の法律関係が有効になる場合
まず、被害者と決済会社との法律関係と、上記で検討した被害者と販売店との法律関係とは、あくまで別個の契約関係であることから、直接には関連しないのが原則である。しかし、インターネットでの通信販売の場合、通常、商品等の代金決済には、クレジットカードを利用して、クレジットカード会社に立替払をしてもらうことが多いと考えられる。
そのため、被害者と販売店との間の法律関係は、被害者と決済会社との法律関係にも一定の関連性を有することになる。
まず、「被害者vs販売店」の法律関係において売買契約が有効とされる場合について考えると、被害者との関係で、売買契約が有効と扱われる以上、被害者と決済会社との関係においても、契約は有効になると考えられる。
もっとも、上記のとおり、販売店との契約関係と決済会社との契約関係は、同一ではないので、クレジットカード会社の会員規約の内容次第で、保険等で商品等の代金が填補される場合もあり得る。
先ほどのアリスとボブの例でいうと、アリスがIDやパスワードをパソコンのディスプレイに付箋で貼っていたときに、ボブがAmazonで勝手にアリス名義で書籍を注文したような場合、アリスは、クレジットカード会社に対し、ボブが購入した書籍代金相当額を支払う義務を負うということである。
「被害者vs販売店」の法律関係が無効になる場合
一般的なクレジットカード会員規約によると、カード会員は、表見代理となる場合又はクレジットカード会員規約上の義務違反により本人に帰責事由がある場合等を除き、支払又は賠償義務を負わないことになっている。そうすると、表見代理が成立しない場合、すなわち販売店との関係で売買契約が無効とされる場合には、基本的には、決済会社との関係において、立替払契約についても、無効になると考えられる。
また、実務的な取扱いとして、インターネット取引のようなサインレス取引の場合、「なりすまし」のように本人以外の第三者によってカード情報が不正に使用された場合においては、カード会社が事実関係の調査を行った上で、カード会員に対して支払請求を行わない取扱いをする場合がある。
さらに、クレジットカード会社の会員規約の内容等で、保険等により、商品等の代金が填補される場合もあり得る。
先ほどのアリスとボブの例でいうと、アリスがIDやパスワードについて、適切に管理・保管をしていたが、情報漏洩によってボブがアリスのIDとパスワードを知るところとなり、その後、ボブがAmazonで勝手にアリス名義での書籍の注文をした場合、アリスは、クレジットカード会社に対し、ボブが購入した書籍代金相当額を支払う義務を負わないということである。
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