サイバー社会と著作権

サイバー社会と著作権

今回は、サイバー社会における著作権について検討します。
なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。ご注意いただきますようお願い致します。

著作権の基本的な考え方

現在の著作権法の基本は、1886年に成立したベルヌ条約にあります。ベルヌ条約は、制定当時である19世紀の活版印刷の時代を反映したものとなっており、その基本的内容は、印刷に対する規制、すなわち印刷業者が大規模に印刷・出版する複製行為を規制するものになっていました。

つまり、19世紀の活版印刷の時代において、複製行為を行うのは、一部の業者に限られていましたので、印刷業者が大規模に印刷・出版する複製行為を規制すれば、それで著作物を違法に複製することを防止できたということです。

なお、日本は、1899年にベルヌ条約に加盟し、同じ年に旧著作権法を制定しました。ベルヌ条約は、加盟国に対し、同条約の内容に沿った著作権法の制定を義務付けておりましたので、日本の旧著作権法もベルヌ条約の内容に沿った形で定められました。つまり、基本的内容は、複製行為を規制するものになっておりました。

その後、日本は、1970年に現行の著作権法を制定しましたが、基本的な考え方は、ベルヌ条約のときと変わっておりません。

サイバー社会における著作権の問題点

デジタル情報の特性

デジタル情報は、すべての情報が0と1で表現されるため、音楽、映像、プログラム等のあらゆる情報を同じDVD-R等の媒体に保存することが可能になっております。

また、デジタル情報は、基本的に複製・改変が容易であり、そのためのコストも低いという特性をもっております。

さらに、デジタル情報は、0と1という情報の集まりであることから、アナログ情報と比較して、複製を重ねても、情報の劣化がないという特性も有しております。

著作者の範囲の拡大

また、情報通信技術が発達したことによって、情報の流通形態は変化し、一般の方であっても、誰でも著作者として著作物を発信することが容易にできるようになりました。

例えば、ホームページを利用したり、facebook、 twitter、 mixi等の媒体を利用する等して、自己の考えや感情等を日々発信されている方が増えてきております。

ベルヌ条約制定当時の著作権は、一部の著作活動を行う人たちのためのものだったといえますが、現在では、一般人であっても自己のホームページを作成して著作物を発表したり、facebook、 twitter、 mixi等において著作物を発表するような場が生まれており、それ故、著作者の範囲が拡大するような状況になってきています。

複製範囲の拡大化

デジタル情報の場合、デジタル情報を使用するためには、デジタル情報を複製することがその前提となるという特性があります。

例えば、A氏が自身のホームページ上で、自ら撮影したデジカメの写真を掲載していたとします。B氏が、このA氏が撮影した写真をウェブ上で閲覧しようとして、A氏のホームページにアクセスした場合、A氏の写真のデジタル情報は、一時的ではありますが、B氏のパソコンのキャッシュメモリに保管されることになります。

この点を厳密に捉えた場合、B氏がパソコンのディスプレイでA氏の写真を見る前提として、一時的ではあるもの、B氏のパソコンのキャッシュメモリへ保存することをもって、著作権法上の複製権侵害と捉えることが可能になってしまいます。

このように、著作物がデジタル情報化することによって、単に閲覧するだけであったとしても、著作物を複製した上で閲覧することになりますので、著作権侵害になる可能性があるという問題が生じることになります。

もっとも、東京地判平成12年5月16日(判例時報1751号128頁)のスターデジオ事件では、ランダム・アクセス・メモリ上での一時的・過渡的なデータの蓄積は、著作権法上の複製にはあたらないと判示されています。

著作権管理における問題点

現状の問題点

著作権は、単に創作を行っただけで発生し、登録その他の手続きを要することなく保護されるという考え方(無方式主義といいます。著作権法17条2項)を採用しておりますので、特許権のように、著作権者を登録しておくデータベースのようなものがありません。

また、著作物を利用するためには、原則として、著作権者の合意が必要ですし、共有著作権の場合、その共有者全員の合意が必要となっております(著作権法65条2項)。

著作物の発生と同時に著作権も生まれますし、著作物を利用するために著作権者の許諾が必要でもありますから、ある著作物の利用を考えた場合、当該著作物の著作者を探し、その著作者から利用許可を得るという権利処理のためのコストを負担しなければならないという問題があります。

しかし、そもそも、著作権は、登録等をすることなく発生する権利であることから、誰が著作権者であるかがわからない場合があります。

また、著作権の存続期間は、原則として、著作者の死後50年間であります(著作権法51条2項)。このように、著作者の死後50年となると、著作者を被相続人とする相続の後に、さらに次の段階の相続も発生していることがあり、相続人である著作権者を探し出すのが非常に困難になるという問題があります。

一応、他人の著作物を利用するために著作権者の許諾を得ようと思っても、著作権者が不明であること等が原因で、相当な努力を払っても許諾が得られない場合について、文化庁長官の裁定を受けて、定められた通常の使用料相当額の補償金の供託をすることにより当該著作物の利用を可能にする制度(著作権法67条から70条)が存在しております。

ただ、この裁定制度を利用するための「相当な努力を払っても許諾が得られない場合」であることの証明をするためにコストが掛かることから、結局のところ、権利処理のためのコストが掛かることには変わりがありません。

サイバー社会における解決案

著作権を保護することは、もちろん大切なことではありますが、このように、著作物の利用が難しくなるようなことが続くとすれば、せっかく創作された著作物を利用する機会が減少し、その結果、文化の発展に寄与しないことになるおそれがあります。

そこで、著作権の利用を促進するための方策としましては、①著作者の許諾を要しない例外を設ける方向での解決策と、②著作者の許諾を得やすいような環境整備を行う方向での解決策とが考えられます。

①の著作者の許諾を要しない例外を設ける方法につきましては、いわゆる日本版フェア・ユース規定の導入の議論があります。これについては、「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する中間まとめ」(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h22_shiho_05/pdf/sanko_ver02.pdf)を見ることで、現在の日本版フェア・ユース規定の導入に関する審議の状況がわかります。

これとは逆に、②の著作者の許諾を得やすいような環境整備を行う方法につきましては、例えば、クリエイティブ・コモンズという著作物を公表する段階で、著作権者が自発的に事前の許諾を与えておくライセンス運動があります。

また、サイバー社会は、大量の情報を容易に保管・管理することができますので、自己の著作権の流通を望む著作権者には、登録制度を任意に利用することも考えられます。

特許権に関して、特許流通データベースがありますが、それと同じように、著作物の流通を望む著作権者に対して、任意の登録を促すことで、当該著作権者への許諾を取ることを容易にする環境整備をすることで、著作物の利用を促進することができるようになると考えられます。

第4 まとめ

以上のとおり、サイバー社会の進展によって、著作権の権利としてのあり方が大きく変容してきております。

著作権のあり方は、現在進行形で変化しているところですし、著作権は、みなさまにとっても関係が深い権利だと思いますので、今後の動向にも注視をしていただければと思います。
yamane1.jpg

山根 義則(やまね よしのり)

弁護士

1972年福岡県生まれ。1996年九州大学工学部情報工学科卒業。2006年弁護士登録。2007年九州大学大学院システム情報科学府情報工学専攻博士後期課程に飛び級入学。暗号理論と情報セキュリティの研究に従事し、その後弁護士となる。弁護士として、事業再生、M&A、税務訴訟、住民訴訟、知的財産コンサルティング等の案件を扱う。研究者としては、電子商取引、電子マネー等の情報セキュリティに関する研究に従事する。法律と技術との架け橋となること、クライアントのニーズに対して戦略的解決を図ることに注力している。

参加募集中のイベント

お問い合わせください
募集中イベントについては、窓口までお問い合わせください。
電話 092-441-2161 まで

記事ランキング