ネット上での誹謗中傷(2)

ネット上での誹謗中傷(2)

本コラムの第1回目において、「ネット掲示板での誹謗中傷等への対処」について書かせていただきましたところ,たまたま、昨年末、2ちゃんねるに対する記事の削除を求める削除仮処分を行いました。福岡地方裁判所では、どうやら第1号の案件だったようです。

以下で述べますが、記事の削除だけであれば、福岡地方裁判所に対して申立てを行うことで権利の実現が可能です。しかし、発信者情報開示については、現在のところ、東京地方裁判所に対して申立てを行う必要があるようです。

今回、2ちゃんねるに対する対処法をご紹介することにいたします。なお、この対処法は、東京の弁護士・弁理士である神田知宏先生のブログ「IT弁護士カンダのメモ」 においてご紹介されている手法と同じでございます。

なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係でございます。ご注意いただきますようお願い致します。

相手方の氏名・住所

まず、裁判を起こすためには、必ず相手方の氏名・名称と住所の記載が必要になります(民事訴訟法133条2項1号、民事訴訟規則2条1項1号)。

では、「2ちゃんねるを運営しているのは誰か?」ということになりますが、これは、「PACKETMONSTER INC. PTE. LTD.」(以下、「パケットモンスター」といいます。)というシンガポール共和国の企業とされております。

そこで、2ちゃんねる案件において、裁判の相手方とするのは、原則として、このパケットモンスターということになります。

パケットモンスターの資格証明書

裁判を行ったことのある方はご存じだと思いますが、会社が当事者となる訴訟を起こす場合、会社の存在や会社の代表者等を裁判所に証明するために、資格証明書といって、会社の商業登記簿を提出する必要があります。

自社が会社である場合には、自社の資格証明書が必要ですし、相手方が会社であれば、相手方の資格証明書が必要になるということです。

2ちゃんねる案件においても、相手方となるパケットモンスターの資格証明書を入手する必要があります。ただ、英語で記載されておりますので、その訳文を付けた上で、裁判所に提出することになります。

参照:裁判所法74条,民事訴訟規則138条1項第1文

ちなみに、パケットモンスターの資格証明書は、次のようなものです。

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管轄

裁判を起こすためには、管轄のある裁判所に対して、裁判を申し立てる必要があります。管轄に関しては、民事訴訟法4条から22条に規定があります。

原則としては、裁判を起こされる側の住所地になります(民事訴訟法4条1項)。これは、裁判に巻き込まれる側の裁判に応対する利益を考慮して、せめて訴えられる側の住所地で裁判を起こさせるようにした方が公平であるという観点のものです。

ただ、民事訴訟法5条によって、例外がたくさん規定されておりますので、裁判を起こす側としては、この民事訴訟法5条を利用して、自分にとって有利になる管轄を選ぶことが多いと考えられます。

例えば、不動産に関するトラブルがあったときは、「不動産の所在地」(民事訴訟法5条12号)でも裁判を起こすことができます。また、交通事故が起きて、それに基づく損害賠償請求をしたい場合には、不法行為に関する裁判となりますので、その「不法行為があった地」(民事訴訟法5条9号)でも裁判を起こすことができます。

一般の方は、管轄について、あまり考える機会がないと思いますが、弁護士や弁護士に依頼をする方にとっては、管轄は、重要な検討事項ということになります。

例えば、福岡を本店所在地とするA社が、東京を本店所在地とするB社を訴えたいと思った場合、原則からすると、B社の住所地である東京地方裁判所が管轄ということになります。その場合、A社は、弁護士費用とは別に、東京地方裁判所へと弁護士が出廷するための交通費や日当も実費として負担する必要が出てきます。

つまり、管轄が遠隔地になってしまうと、それだけ経費が掛かることになるということです。できる限り、自社の近くで裁判ができないか? と管轄について検討をする必要があります。

これを前提にして、2ちゃんねる案件における管轄について見ていきます。

まず、パケットモンスターは、シンガポール共和国の会社ですので、原則論からいうと、シンガポール共和国になりそうです。

この点は、①削除を行う場合と②発信者情報開示を行う場合とで考え方が異なりますので、個別に検討していきます。

①削除を行う場合

誹謗中傷記事の削除を求める場合、その根拠となるのは、民法709条の不法行為ということになります。そして、上述したとおり、不法行為に関する裁判は、その「不法行為があった地」(民事訴訟法5条9号)が管轄となります。

ただ、「不法行為があった地」といっても、不法行為の加害行為があった地をいうのか、不法行為の被害結果が発生した地をいうのかという問題になりそうですが、一般に、国際的裁判管轄に関しては、加害行為地と被害結果発生地のどちらにも、不法行為地としての管轄が認められております。

つまり、誹謗中傷記事に関する事件については、その誹謗中傷記事を見て、被害結果が発生した場所、すなわち、被害者の住所地を管轄として、裁判が起こせるものと考えられます。

今回の2ちゃんねる案件も、依頼者が福岡の方であったことから、被害結果の発生地である福岡を管轄する福岡地方裁判所へと申立てを行いました。

どうやら、2ちゃんねる案件としては、福岡地方裁判所では第1号の案件だったようです。

②発信者情報開示を行う場合

発信者情報開示の請求権は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下、「プロバイダ責任法」という。)4条によって認められた権利ですので、当該請求権の性質によって、管轄の考え方も決まることになります。

この点、発信者情報開示請求に関する訴えは、我が国の民事訴訟法上、財産権上の訴えにも不法行為に関する訴えにも該当しないものと解されております。

参照:「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律-逐条解説-」41頁

そうすると、民事訴訟法上の裁判籍の規定を手掛かりにして、国際裁判管轄を決定する判例の立場を前提とすると、基本的には、被告の住所地国にしか国際裁判管轄は認められないことになりそうです。

ただ、民事訴訟法4条4項において、主たる事務所・営業所の地、代表者又は主たる業務担当者の住所地をもって、法人の住所地とすることができるという規定がありますので、2ちゃんねるの主たる業務担当者が日本国内にいれば、その人の住所地をもって日本国内に管轄を認めてもらうことができそうです。

少なくとも過去において、2ちゃんねるを運営していたのは、西村博之氏であることは事実であり、現在も、西村博之氏が、2ちゃんねるの主たる業務担当者であろうと言われておりますので、その旨の疎明を裁判所に対して行うことによって、東京地方裁判所に管轄が認められることになります。

その他手続事項

「削除ガイドライン」

2ちゃんねるには、「削除ガイドライン」という一応のルールが規定されております。このガイドラインに従う限りにおいて、2ちゃんねるの削除人から任意の削除に応じてもらえます。

このガイドラインにおいて、

9. 裁判所の決定・判決
  判決・仮処分の決定など※
  裁判所より削除の判断が出た書き込みは削除対象になります。
という記載があります。つまり、仮処分の決定が出ている場合、削除対象になるということです。

ここは法律家でないと、わかりにくいところかもしれませんが、つまり、保全執行をしなくても、仮処分決定が出ていれば、「任意に」削除に応じてもらえるということです。

債務者審尋について

民事保全法上、削除や発信者情報開示を求める仮の地位を定める仮処分には、原則として、債務者審尋が要求されています(民事保全法23条4項本文)。

しかし、パケットモンスターは、シンガポール共和国に所在する海外企業でありますので、海外送達をした上で、かつパケットモンスターの審尋を要求するとなると、多大な時間が掛かると考えられます。

そこで、民事保全法23条4項但書により、債務者無審尋での仮処分命令を発令してもらえるよう、上申を行います。

パケットモンスターへの送達を遅らせること

上記同様、パケットモンスターは、シンガポール共和国に所在する海外企業でありますので、パケットモンスターへの海外送達を待つとすると、多大な時間が掛かると考えられます。

そこで、裁判所に対して、パケットモンスターへの送達を遅らせてもらうように上申を行います。

これは何故かというと、上記で述べたとおり、仮処分決定さえ出ていれば、2ちゃんねる側から、任意の削除に応じてもらえますので、パケットモンスターのあるシンガポール共和国へと、わざわざ海外送達をする必要がないからです。

担保金について

担保金の相場としましては、概ね30万円というところです。

また、削除又は発信者情報開示の目的を達したとき、民事保全規則17条1項により、担保の取戻しをすることができます。
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山根 義則(やまね よしのり)

弁護士

1972年福岡県生まれ。1996年九州大学工学部情報工学科卒業。2006年弁護士登録。2007年九州大学大学院システム情報科学府情報工学専攻博士後期課程に飛び級入学。暗号理論と情報セキュリティの研究に従事し、その後弁護士となる。弁護士として、事業再生、M&A、税務訴訟、住民訴訟、知的財産コンサルティング等の案件を扱う。研究者としては、電子商取引、電子マネー等の情報セキュリティに関する研究に従事する。法律と技術との架け橋となること、クライアントのニーズに対して戦略的解決を図ることに注力している。

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