電子出版
最近、iPadやKindle等の普及とともに、電子書籍が普及してきており、新たなビジネスとして注目を集めています。そこで今回は、電子出版について検討してみたいと思います。
なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であって、筆者の所属組織とは無関係ですので、ご注意いただきますようお願い致します。
電子書籍の端末
電子書籍とは、デジタル情報として配信される書籍・漫画等の出版物のことをいいます。まず、電子書籍を閲覧する端末の販売状況についてですが、ソニーは、日本国内で販売していた電子書籍端末LIBRIeの姉妹機Readerの販売を平成18年9月に米国にて開始しました。Amazon.comは、平成19年11月にKindleの販売を開始しました。そして、ソニー及びAmazon.comは、平成21年に新モデルの電子書籍端末を市場に投入しております。
また、電子書籍は、専用の端末だけではなく、PCやスマートフォンを含めた携帯電話などでも電子書籍を表示することが可能ですので、平成22年4月にはAppleがiPadの販売を米国で開始するとともに、電子書籍の配信プラットフォームである「iBookStore」を開設しています。そして、iPadは、日本でも平成22年5月に販売が開始されております。
これに対して、ソニーは、平成22年12月10日に「SONY Reader」の販売を開始しています。また、それに合わせて、ソニーは、専用の電子書籍ストアである「Reader Store」も開設しております。
今後、国内でも電子書籍端末の市場拡大が予想されるところです。具体的には、米国における平成21年の電子書籍端末の出荷台数は300万台と推定されており、平成22年は600万台にまで市場が拡大していると予測されています。
国内では、平成16年以降に販売を開始した電子書籍端末の製造が中止される等によって、その当時、市場として立ち上がりませんでしたが、米国での電子書籍市場が拡大していること、国内のデジタルコンテンツの流通基盤が整備されていること等を背景として、日本においても、電子書籍の市場規模が徐々に拡大しつつある状況にあります。
電子書籍の市場規模
株式会社インプレスR&Dが公表した「電子書籍ビジネス調査報告書2009」によりますと、平成21年(2009年)3月期の国内電子書籍市場規模は前年度比31%増の約464億円と推計されております(※1)。また、投資銀行のGoldman Sachs GroupのJames Mitchellが、平成22年4月12日に発表したレポート(※2) によりますと、2015年(平成27年)における米国の出版市場全体の規模は、約249億ドル(約2兆337億円。1ドル=81.67円の場合)と予測しており、そのうち、電子書籍は、約31億9000万ドル(約2605億円)を占めると予想しています。
法律的な問題点
新たな権利処理の必要性
紙の印刷物の場合
出版権とは、著作物を文書・図画として出版することに関する排他的権利をいいます。出版権の設定により、出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって著作物を原作のまま印刷等により複製する権利を専有することになります(著作権法80条1項)。
なお、頒布とは、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することと定義されております(著作権法2条1項19号)。
電子書籍の場合
電子書籍の場合、紙の印刷物と異なって、頒布によって著作物が流通するものではありません。電子書籍は、電子的なデータであって、インターネット等の通信回線を通じて流通することから、著作権法上、公衆送信によって権利処理されることになります。このように、著作権法上、権利処理の内容が異なるため、適法に紙の印刷物に関する出版権を有している出版社であっても、当然に、電子書籍に関する流通の権利を持っていることにはなりません。つまり、出版社が電子書籍として、新たに出版しようと考えた場合、あらためて著者から、公衆送信に関する許諾を得る必要があるということです。
この新たな権利処理が発生するという点で、日本は、米国よりも電子書籍への対応が遅れたものと考えられます。
契約の重要性が高まること
紙の印刷物の場合
基本的に、著者が紙の印刷物で出版をしようとする場合、自分で印刷したり、書店等へ流通させたりすることは事実上困難ですので、出版社と契約をする必要があります。そして、出版契約書を締結する際、日本書籍出版協会が作成している出版契約書のひな型が存在しています(※3)。このひな型は長年利用されているものであり、一定の合理性があるとされておりますので、出版社及び著者にとって、ある程度、公平な形での契約締結を実現することができるようになっています。
電子書籍の場合
これに対して、電子書籍の場合、著者が自分のホームページ上で販売することもできますし、AppleやAmazon.com等と契約をすることによって、電子書籍をすることも可能になっています。このように、電子書籍の場合、必ずしも出版社を通じて流通させる必要がなく、多様な方法により流通をさせることのできる選択肢が広がった反面、著者は、その選択肢に応じた契約締結を行う必要に迫られるということになります。
なお、平成22年11月1日、日本書籍出版協会は、電子書籍用の出版契約書等のひな型3つを公開しております(※4)。ただ、この契約書ひな型は、作成されて間がないものでありますし、その内容についても、出版社が電子書籍の独占的許諾権を取得する内容となっている等、議論の余地があるところだと思います。
結局、著者としては、電子書籍の際に締結する契約書について、自らチェックをする又は弁護士等の専門家にチェックを依頼するべきであり、電子書籍に関する権利を自己防衛する必要があるといえます。
最後に
法律家の観点から、電子書籍に関する問題点のほんの一部について検討してきましたが、電子書籍の出現により、出版業界は、今後、流通構造及びビジネスモデルをどのように変化させていくかという問題を抱えております。もちろん、電子書籍が普及したからといって、紙の印刷物が消えることはないと考えられますので、今後、どのような方向性で両者の棲み分けを図っていくかが重要になろうかと思います。
この両者の棲み分けに関することについては、すでにケビン・メイニー氏が、著書「トレードオフ」(プレジデント社)において、「上質さと手軽さ」というキーワードを用い、紙の印刷物は上質さを目指し、電子書籍は手軽さを目指すという戦略を提示しています。
電子書籍がより手軽な存在として、ユーザーに利用してもらえるようにするためには、流通を担当する出版社に対し、電子書籍に関する一定の隣接権を付与する等の法律改正も含め、議論を行う必要があるかもしれません。
(※1)「電子書籍ビジネス調査報告書2009」,株式会社インプレスR&D,インターネットメディア総合研究所 高木利弘 2009。
(※2)「U.S. Book Sales to Increase on E-Books, Goldman Says (Update1)」,Businessweek(http://www.businessweek.com/news/2010-04-12/u-s-book-sales-to-increase-on-e-books-goldman-says-correct-.html)
(※3)日本書籍出版協会 http://www.jbpa.or.jp/publication/contract.html
(※4)日本書籍出版協会 http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/denshikeiyakusetsumei2.pdf
















