「個の競争」の時代
「これが噂の農商工連携」コラムの掲載が4回目になった。今まで3回の記事では、旅回りの蜂蜜、長崎の月桃、大分のかぼすに惚れたそれぞれの事業者たちが、自らが第一次産業者で有るか否かにかかわらず、自分のできるその生産物を守る取組みを取り上げてきた。
4回目の今回は、そういった農商工連携のプレーヤーたちが、大手メーカーや流通業者が割拠するこの厳しい食品市場のなかで、どんな商品を開発し、どんな売り方をすれば、安定した生産と販売を行っていくことができるのか、そのヒントになる市場に対する考え方を論じてみたい。
「個の競争」の時代
今日は、「個の競争」の時代と言える。下図は、2000年を100としたときの1世帯あたりの所得・消費に加え、世帯人員をグラフにしたものである。総務省家計調査のデータから計算すると、2009年の所得(勤労者世帯平均)は91.3、消費は90.2(全世帯平均)となっており、この10年間の家計消費の落ち込みが表れている。しかし、その状況下でも、厚生労働省国民生活基礎調査のデータから計算すると、世帯人員(全世帯平均)も94.9と落ち込んでおり、「個」の消費が進む背景になっている。なお、1990年から2005年への同様のデータ分析では、所得・消費を上回るペースで世帯人員が落ち込んでいたのに対して、2000年から2009年への分析では、前述の通り、世帯人員の落ち込みを所得・消費の落ち込み幅が上回っている。
世帯人員の落ち込み幅が大きい期間では、世帯当たりの所得・消費が落ち込んでも、1人あたりの所得・消費が上がる、家計と個人の消費の逆転現象が起きる。これは筆者が「個の消費」と呼んでいる社会現象で、この市場変化にのって「プレミアムビール」「年齢ごとに細分化された子供服ブランド」「エステティックサロン」などの市場が大きく拡大した。
しかし、この10年は、世帯人員より所得・消費の落ち込みが大きいため、「個の消費」の時代に成長し、また生き残ってきた企業が、それぞれの取り込んだ「個」の消費者に対して、より精緻なマーケティングアプローチを継続できているかどうか試される、「個の競争」の時代になったと筆者は考えている。

(1世帯当たり所得・消費・世帯人員の変化図
総務省家計調査・厚生労働省国民生活基礎調査のデータを元に筆者が作成)
総務省家計調査・厚生労働省国民生活基礎調査のデータを元に筆者が作成)
食品業界のマーケティングトレンド
まず、食品市場をとらえる時に最も重要なことは、食事は毎日のことだということである。また、衣・食・住のそれぞれの商品グループで考えたときに、食のグループは他のグループに比べて、購買頻度(買い物の回数)が多い。したがって、毎日の食生活とそのための買い物において、消費者は「健康・安心・安全」だけでは飽きてしまう。セルフサービスの売場といえども、「楽しみ」が求められるということになる。下図は、筆者がまとめた近年の食品市場の概況である。左側に、九州の食品市場に吹いている「追い風」が、右側に「向い風」が記されている。「個」の時代であるからこそ、個々へフィットする消費が求められること、サービス消費の伸張が激しいからこそ販売の現場にも一定のサービスレベルが求められること、等は市場変化のなかでも対応が可能な部分と前向きにとらえ、「追い風」に入れた。
一方、流通業の伸張、特に卸売業のM&Aが進み、取引の集約と各社のフルライン化が進んでいることや、大手小売グループによるPB(プライベートブランド)の取組みが進み、相対的に食品製造業者や農林水産業者の付加価値率に対する押し下げ圧力がはたらくこと、等は冒頭の農商工連携のプレイヤーたちにとって、管理不可能な環境要因ととらえ、「向い風」に入れた。
なかでも押さえておきたい大切なポイントは、「追い風」にあっては、九州が人口、面積などは我が国の1割ほど(2010年1月九州経済産業局「九州経済の現状」によれば、面積は11.2%、人口は10.5%)しか持たないにもかかわらず、農業の産出額においては、全国の2割弱(農林水産省「平成19年生産農業所得統計」では19.2%)を占めるという事実である。
また、「向い風」のなかでは、情報ネットワーク技術の発展とともに、消費者の情報流通コストが下がり、品質管理におけるトラブルの情報拡大が速く、品質管理コストの押し上げ圧力を形成するとともに、規模拡大にともなう品質リスクの低減を難しくしている。
(筆者がまとめた近年の食品市場の概況図)
段階的ブランド化
事業をするからには、夢は大きく、というのはどの事業者にも共通するものではあるが、こと食品に関しては、夢ばかり見ていると足元をすくわれるということを、声を大にしていいたい。前述の通り、情報流通が速くなり、品質リスクの低減コストの増大をまねいていることや、ピークオイル(石油エネルギーの生産限界)論などを前提とした、原油コスト(原油の高騰は、エネルギー代替の関係から穀類価格の上昇圧力にもなる)の長期的上昇トレンド等、食品の製造原価は全体的に市場からの押し上げ圧力が強い。
ところが、食品産業は「毎日の食生活」を支える産業であるが故に、1品あたりの単価が衣・食・住グループのなかで、最も低く、価格への転嫁が難しい。
また、その買い物頻度の高さや、消費・賞味期限の設定が多くの分類で求められるために商品廃棄などのロスが多いことから、定番品として長期の商品ライフサイクルへ入り、その期間中を通して設備資金を回収する、気の長い商いでもある。
下図は、筆者の唱える「段階的ブランド化」という考え方を図にしたものである。食品産業にあっては、都心の消費者の流行りを狙うとうまくいかないということである。急速な生産拡大は、量的供給と品質管理のリスクを招き、また我が国の地域ごとに細分化された食品への嗜好性から、帰ってくる場所を失う危険もある。つまるところ、地元に愛されない商品や企業は、食品業界では生き残れないということを意味しているものでもある。
(段階的ブランド化 各地域の流通業との取組みが重要)
明日へ向けて 九州食品パートナーシップ
前述の通り、全国の19.2%の農業産出額を誇り、生産地として国内の農商工連携における相対的優位性を持つ我が九州は、しかし域内総生産では我が国の8.5%(内閣府「県民経済計算年報」平成18年度)を占めるに過ぎない。この地域で40年近くの時間を過ごし、また1事務所を経営する筆者も、食品関連産業の1プレーヤーとして、この現状に対する「思い」を抱かないものではない。下図は、筆者が現在仕掛けを行っている「九州食品パートナーシップ」の構想図である。既に、某中小企業支援機関を中心とした取組みが進み、九州の大手流通業や、食品に強い地元メディアなどの協力のもと、地域の農林水産業者や食品製造業者を支える企画が複数実施されている。
食品産業における、地元を一歩飛びに都心へ出ることの危険性を説くとともに、その地元(=九州)における食品の市場化・商品化・産業化を進めることで、域外(=九州以外、無論、海外も含む)へ打って出るための体力を養う取組みと私は位置づけている。嬉しいことに、同パートナーシップへ参加・協力したいという大手企業等の申し出が増えてきている。
現在この取組みは、「農商工等連携支援」や「地域資源活用プログラム」等、国の行っている新産業創出支援に関わる支援施策の認定を受けた食品関連業者へのサービスプログラムとして前述の支援機関から提供する形を取っているが、パートナーシップの必要性や志への理解が進むことで、九州の「食」を守る(≒日本の「食」を守る)開かれた取組みへと成長させたい。
今回のコラムでは、今までの3回のコラムとは違い、九州の食品市場の概況と関連業者の課題について簡単に述べた。次回からまた、各プレーヤーの「農商工連携」取組みを紹介していくが、必要に応じて、今回の様な「食」市場の話も語っていきたい。
(筆者の企画する「九州食品パートナーシップ」の図)















