クラウド・サービスと著作権法

クラウド・サービスと著作権法

しばらくの間、本コラム自体が休止となっておりましたが、また再開することとなりました。
今回は、クラウド・サービスと著作権法について、検討してみたいと思います。
なお、本コラム中の意見にわたる部分は、すべて筆者の個人的見解であって、筆者の所属組織とは無関係ですので、ご注意いただきますようお願い致します。

1 各種クラウド・サービス

近時、クラウドコンピューティングを用いたサービスに注目が集まっています。

今年に入ってから、Amazon、Google、Appleが立て続けに、音楽の保存・再生等のクラウドを用いた音楽配信サービスを開始しました。

(1)Amazonの「Cloud Drive」
Amazonは、2011年3月29日、「Cloud Drive」サービスをスタートさせました。
基本的に、このAmazonのサービスは、自分で購入・所有している楽曲を視聴するものとなっているようです。

(2)Googleの「Music Beta by Google」
続いて、Googleは、2011年5月11日、「Music Beta by Google」という音楽の保存・再生等のサービスを開始させました。
このGoogleのサービスも、Amazonのサービスと同様に、ユーザーがサーバーに音楽データをアップロードし、パソコンやAndroid端末等からストリーミング再生できる仕組みとなっているようです。

(3)Appleの「iTunes Match」
Appleは、2011年10月12日、「iCloud」サービスを開始させました。
「iCloud」の音楽配信サービスとして「iTunes Match」があります。
この音楽配信サービスである「iTunes Match」は、音楽ファイルそのものをアップロードするAmazonや、Googleのロッカーサービスとは異なっています。
具体的に、「iTunes Match」は、自身がCD等からインポートした曲とiTunes Storeのデータベースとをマッチさせるサービスであり、iTunes Storeにその曲が存在していれば、サーバ側で「所有」フラグを立てるだけで自動的にiCloudのライブラリに追加され、処理が短時間で終わるのがポイントとなっているようです。

(4)まねきTV事件・ロクラクⅡ事件
これらのクラウドを用いた音楽配信サービスは、米国を初めとする一部の地域でのサービス開始となっており、今のところ、日本はサービス対象外になっております。
その原因の一つとして、まねきTV事件(*1) とロクラクⅡ事件*(*2)の最高裁判決が考えられます。

まず、まねきTVは、利用者が預けた機器を通じて、放映中のテレビ番組をインターネット回線を通じて転送するサービスのことです。
次に、ロクラクⅡは、テレビ番組の放送を受信して録画し、当該録画データをインターネット回線を通じて、利用者の端末に転送するというサービスのことです。ロクラクⅡは、海外に居住している日本人が、日本のテレビ番組を見るために用いられるサービスのようです。

つまり、ロクラクⅡは、録画したデータを転送するサービスになりますが、まねきTVは、リアルタイムでテレビ番組のデータを転送するサービスということになります。
まねきTVも、ロクラクⅡも、知財高裁においては、適法と判示されていたのですが(*3・*4)、最高裁では、どちらも知財高裁の判決が破棄されてしまっております。

(5)判例評価
判例の細かい議論にまで踏み込むことはできませんが、概略としての考え方を検討すると、次のとおりになります。
知財高裁は、同一人に所有されている1対1の送受信装置を使っている点を重視して、適法と考えているようであり、どちらかというと利用者アプローチという考え方での判断になろうかと思います。
これに対して、最高裁は、同一人に所有されている1対1の送受信装置を使っていたとしても、送信者が不特定の者に送信するのであれば公衆への通信にあたるという点を重視しておりますので、どちらかというと著作権者アプローチという考え方での判断になろうかと思います。

最高裁判決について、単に設備の運営という域を超えて、より積極的に当該対象地域以外では視聴することができないテレビ番組(著作物)の取得に直接的に関与しているという点を重視された結果と考えられる*(*5)という指摘がなされております。
また通常、ロケーションフリーの場合、予定されていない放送地域での放送をされることになる点や、インターネットでの送信のライセンス契約がない点等が問題となります。かかる点で、まねきTV・ロクラクⅡは、現在のライセンスシステムを壊すことになる(*6) という指摘もなされております。
著作権法は、著作権者を保護することを第一義とした法律ですので、基本的には、法解釈としては、著作権者アプローチによる判断は、妥当であると考えられます。

ただ、上記で述べましたとおり、米国等では実施されているAmazonの「Cloud Drive」、Googleの「Music Beta by Google」及びAppleの「iTunes Match」等のクラウド・サービスについて、日本での実施についての萎縮効果を与える結果になっていると考えられます。
著作権法は、著作権者の保護を第一義としておりますので、最高裁のような著作権者アプローチは、法解釈としては妥当であると考えられますが、著作権法は、「文化の発展に寄与することを目的」(著作権法第1条)ともしておりますので、利用者アプローチとしての考え方も文化の発展のためには欠かすことができないと考えます。
また、19世紀末の考え方を基礎とした現行の著作権法は、インターネットをはじめとするデジタル技術によって、変容が迫られてきていると考えます。例えば、現行の著作権法は、複製のために著作権者からの許諾を得ることを前提にしておりますが、他方、インターネットにおいては、データ保存のため、複製を行うことが基本になっており、現行の著作権法との間で抵触が生じてしまいます。
このような点から、著作権法を利用者アプローチで考え直していくことが重要であると考えます。

(6)米国での状況
ここで、素朴な疑問として、米国の方が日本よりも訴訟社会なのであるから、クラウド・サービスについても、むしろ米国の方で訴訟が起きているのではないかという点があろうかと思います。

日本におけるロクラクⅡ事件やまねきTV事件と類似のものとして、Cartoon Network LP, LLLP v. CSC Holdings, Inc.という訴訟がありました。
概略すると、ケーブルビジョン社がネットワーク・センターに設置した大型記憶装置で番組録画を行うサービスを計画し、ユーザーの手元にある装置には番組録画のハードディスクを内蔵しておらず、ネットワーク経由で接続されたサーバーのハードディスク上の各ユーザー専用エリアに録画を行う仕組みになっていたという事案でした。
裁判所は、サーバーからユーザーへの送信は、当該ユーザーが自分のために作成した専用の複製物を、当該ユーザー自身にのみ送信するのであるから、公衆への送信とはいえないと判断しました。
考え方としては、ロクラクⅡ事件やまねきTV事件における知財高裁の利用者アプローチとしての考え方に近いといえます。

結論だけを見てみると、日本と米国とでは、対照的な裁判結果になっているように見えますが、米国での上記の裁判例は、二次的侵害責任とフェアユースを論じないという取決めでの裁判結果ですので、単純に、日米で対照的であるとまでは言い切れないのではないかと思います。
むしろ、米国においては、例えば、「iCloud」の場合のように、広告枠を設け、そこから得られる広告収入を音楽企業に配分する仕組み行う等のようにビジネスモデルに工夫をすることによって、著作権保護とのバランスを取っているようにみえます。

2 まとめ

以上のように、クラウド・サービスと著作権との問題について検討しました。 法的には、著作権法の19世紀末の考え方を見直す時期にきていると考えられます。また、著作権保護に関する解決方法は、法的解釈だけの問題ではなく、ビジネスモデルの工夫によって図られると考えられます。


(参考)
*1 最判平成23年1月18日裁判所Webページ
*2 最判平成23年1月21日裁判所Webページ
*3 知財高判平成20年12月15日判時2038号110頁
*4 知財高判平成21年1月27日裁判所Webページ
*5 「まねきTV・ロクラクⅡ最判の論理構造とインパクト」、小泉直樹、ジュリスト1423号8頁。
*6 「放送事業者の著作隣接権と最高裁判決のインパクト」、上原伸一、ジュリスト1423号24頁。


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山根 義則(やまね よしのり)

弁護士

1972年福岡県生まれ。1996年九州大学工学部情報工学科卒業。2006年弁護士登録。2007年九州大学大学院システム情報科学府情報工学専攻博士後期課程に飛び級入学。暗号理論と情報セキュリティの研究に従事し、その後弁護士となる。弁護士として、事業再生、M&A、税務訴訟、住民訴訟、知的財産コンサルティング等の案件を扱う。研究者としては、電子商取引、電子マネー等の情報セキュリティに関する研究に従事する。法律と技術との架け橋となること、クライアントのニーズに対して戦略的解決を図ることに注力している。

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