中小企業が独自で事業継続計画(BCP)を作ることは、時間的にも経費的にも難しいと考えているところが多いようです。そこで、九州エルピーガス卸売協会の栗原さんは、協会内の同業種の事業者さんたちが比較的簡単に取り組めるように、業界特有の事情にも配慮したBCP構築のためのガイドラインを作られました。
-早速ですが、「新型インフルエンザ対策のための行動計画と事業継続計画(BCP)策定の指針」というものを作られたそうですね。それはどのような内容のものですか?
当協会(九州エルピーガス卸売協会)では、このたび構成事業者向けに、特に強毒性の新型インフルエンザを対象とした事業継続計画(BCP)の策定のためのガイドラインを作りました。
ご承知のとおり、LPガス事業者は、ライフラインの一端を預かる「社会機能の維持に関わる事業者」であります。ひとたび大きな災害等が発生した場合、社会的責任を果たすために事業継続が要請されます。協会の各構成事業者が、いざというときにこの責任を全うできるように、その対応策を進めていくための指針を提供していく取り組みです。

-貴協会はどのような事業をされているのですか?
九州で事業活動をしているLPガスの卸売事業者30社で構成されている同業事業者が参画する協会です。日頃は、LPガス事業の公共性に立って、LPガスの安全・安定的な供給が果たせるよう、保安・需給・流通問題等に関する調査研究等の活動を進めております。
-さて、LPガスという業界において、防災とか危機管理などのテーマはどのような位置づけなのでしょうか。
もともと危険物を取り扱うということや、生活に密着したライフラインの供給を担うという点で、防災や危機管理という分野での業界意識は高いと思います。毎年のように、これらに関する実態調査・研究が行われております。
それと、LPガスは、都市ガスと異なり、容器(ボンベ等)で供給するため“分散型エネルギー”といわれ、災害に強いとか、復旧が早いなどが特徴となります。災害時の仮設住宅などへの設置も容易であり、各自治体と防災協定を締結するなど災害復旧支援にも積極的に取り組む姿勢が日頃から醸成されています。政府が策定する『エネルギー基本計画』においても「分散型エネルギー供給源であり、災害時対応にも優れ、かつ天然ガスとともにクリーンなガス対エネルギーであり、引き続き活用すべき」と位置づけられています。

-それでは、今回作られた事業継続計画(BCP)は、防災や危機管理対策などと、どのように違うものでしょうか?
当初はこれまでの防災や危機管理対策の延長線上でこのBCP作成を考えました。ところが、防災や危機管理対策が、人の安全、特定業務の継続、組織対応などといった特定の切り口について検討する概念だったものに比べ、このBCPは災害等に対する予防やトラブル対策だけでなく、“企業存続”ということがテーマだということが分りました。つまり、BCPの概念はもっと幅広い経営戦略の一環での取り組みだということに気がついたわけです。
当協会では、これまで培ってきた従来からある防災や危機管理対策のノウハウの蓄積の上に立って、どのような大きな災害等に際しても、各事業者が生き残りのために“如何に危機を乗り越えて事業の継続につなげるか!”ということを、改めて検討いただき、これまでより一段踏み込んだ経営戦略の視点に立った事業継続計画策定につなげていただきたいと考えています。
-昨年の新型インフルエンザ(H1N1:弱毒性)の世界的な感染拡大は、貴協会や業界にとってどのような影響があったのでしょうか。
幸いに取り立てて大きな被害はありませんでした。ただ、濃厚接触者の扱いをどのようにするかなど、各事業者の行動計画の有無によって対応が微妙に違ったように思います。また、ほとんどの事業者が対応策を具体的に準備していなかったため、一般の情報に惑わされたところも多いようでした。
-今回のBCP構築への取り組みのきっかけは何ですか?
当協会では実は早くから新型インフルエンザ対策のための取り組みを計画しておりました。平成19年3月に厚生労働省より「事業場・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」というものが発表されており、当協会ではその年の事業計画に対策マニュアルの策定を盛り込みました。そもそもはこれが始まりでしたが、BCP構築まで踏み込んだものではありませんでしたし、業界内での認識もあまりなく、具体的な取り組みは進みませんでした。
-BCP構築を行う際にどんな準備をされましたか?
とりあえず資料を集めることから始めました。翌年の平成20年までにかなりの資料を集め、簡単な行動計画みたいなものは作っておりました。しかし、皆さんに公開できるレベルではありませんでした。

-ところで、新型インフルエンザ対策のための事業継続計画(BCP)策定のポイントはどのようなところでしょうか。
実は私どもの上部団体であった全国エルピーガス卸売協会(現在「社団法人エルピーガス協会」)では、平成19年2月に、幅広い災害を対象とした「BCP策定ガイドライン」を作っております。ただ、新型インフルエンザは他の災害と違って物的被害よりも人的被害が大きいという点が特徴となります。一方で、LPガス業界は人の作業を中心とした労働集約的な特性があります。つまり、新型インフルエンザが蔓延すると、即、安定供給に支障が発生するという点に着目しております。
ただ、今回の弱毒性のものと違い、H5N1型の強毒性に対する対応策については、たとえば少ない人員でも業務が進められるようにクロストレーニング(一人で複数の業務がこなせるように日頃から訓練を進めること)や休業補償等の労務対策などをしっかりBCPに組み込んでおくことがとても重要と感じております。
-実際にBCP作りはどのようにされましたか?
そうですね、なかなか取り掛かりの糸口を見つけるのが難しいでしたが、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」、全国エルピーガス協会が作った雛形などの参考資料をもとに、策定に向けた検討を行っていきました。それと、各事業者のサンプルの情報提供も求めたところ、数社からの情報提供も受けることができました。また、協会の体制として、総務委員会や保安・技術委員会の力も借りながら具体的な内容を詰めていきました。

-活用された施策や支援機関はどのようなものですか?
はい、昨年の春頃を期に、政府からBCP構築に関するさまざまな資料が提供されるようになりました。さらに、5月以降は今般の豚由来の新型インフルエンザに関する情報が数多く受けられるようになりました。
特に、福岡商工会議所開催のセミナー受講はBCP策定の全容を知る上でためになりました。また、複数回にわたる無料窓口相談への訪問は、BCPを具体的に作り上げる過程で、さまざまなアドバイスを受けることができ、とても有効に活用させていただきました。
-成功された(うまくいった)理由はなんだと思いますか?
作成の段階ごとに窓口相談でアドバイスを受けたことが、BCPを作り上げることができた一番の理由だと思います。それと、約半年間という期間(期限)を決めて、集中して一気に作ったということが、モチベーションの維持の上でとても良かったと思っています。
-逆に失敗したことや苦労されたことはありましたか?
はい、本当は協会の委員会の中でプロジェクトを組んで進めたかったのですが、時間等の制約で、現場で様々な業務に携わっている方々の情報の反映が十分に行えなかったことです。もっと、実用的なものにしたい思いはあったものですから、それが少し悔やまれるところです。
-専門家のアドバイスで良かったのはどのようことですか?
相談窓口のアドバイスで、特に印象深いのが、前述のとおり災害対策とBCPの違いを教えてもらったことです。多少混同気味だったのですが、根本的な考え方において似て非なることを分りやすく説明いただきました。それによって、BCPの理解も深まりました。
-現在のBCP構築・運営の課題はどのようなことですか?
平成22年度の協会のトップセミナーにおいてBCPセミナーを実施し、各事業者の経営者向けにこのBCP構築・運用に向けたアピールをしたいと思います。また、協会のホームページにも掲載したいと思っております。
-貴協会のような同業種団体や組合等が傘下の事業者向けにこのような指針(ガイドライン)を作ることはとても有意義と思いますが、協会等がスムーズにBCP構築を進めるためのポイントをアドバイスください。
はい、先ずは業界全体の危機管理意識が高くないといけません。業界をあげて考えるべきだと考えます。やはり、団体の長の率先した指導力が重要になります。その上で実務的には、委員会等のワーキンググループの立ち上げも必要となるでしょう。また、現在ではさまざまな支援体制ができておりますので、是非支援機関の活用を薦めたいですね。
-これからの協会事業の目標や夢は?
我々の業界に限らず、産業構造が少しずつ変化してきております。当協会においても各事業者の生き残りを前提に、“エネルギー革命に対応できるしなやかな経営戦略を推進”し、“我々に求められる社会的責任を果たしていきたい”と考えています。
【レポーターのコメント】
栗原さんのお人柄でしょうけど、BCP構築という結構重たい内容の話を、穏やかな口調の中に確たる意思を持ってわかりやすく説明していただきました。中小企業や中小企業の団体等での、BCP構築の取り組みはまだまだ多くありません。やはり、組織内に栗原さんのような推進役の方がいらっしゃることは、とても重要なことだと改めて実感した次第です。
特に、BCPを生き残りのための事業戦略の一環としてとらえ、作成・運用を普及していきたい!という、考え方の基盤に揺るぎがないところにとても感銘しました。また、文中にもありましたように、日常業務でとてもお忙しい中で、何とか作り上げるという強い意志は、これから取り組もうとされている他の事業者さんの良いお手本になるのではないかと感じました。
添付資料(印刷用にご利用ください)
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レポーター:薗田 恭久(そのだ やすひさ)
中小企業診断士
民間企業勤務を経て、情報通信関連会社を同僚と創業。以後代表取締役含む14年間に亘る企業経営実務を経験。その後2005年、有限会社薗田経営リスク研究所を設立、経営コンサルタントに転身する。事業承継支援、事業再生支援、経営革新支援、およびBCP(事業継続計画)・BCM(事業継続管理)の企業経営リスクマネジメント構築支援等を専門分野として、中小・中堅企業の支援を積極的に行っている。
- 九州エルピーガス卸売協会
福岡市中央区天神3-1-16
橋口ビル5階
TEL:092-761-1735設立:昭和36年















