ダラダラ残業
Q.当社は印刷業をメイン業務としている会社で、従業員が30名ほどおります。メインの印刷業の他にも市場調査業務、広告の企画制作業務を行っております。ただ、
今年に入って業務量そのものは減少しているにもかかわらず残業は減らず、むしろ増えているため、社内で調査したところ、上司が指示しておらず、残業をする必要がないにもかかわらず社内に残って、パソコンの前に座って残業するふりをしていたり、企画を考案しているのかいないのかわからないまま時間を過ごしていたりというややダラけた冗漫な残業と思われるフシが見受けられます。
業績も芳しくなく、何とか経費も抑える必要もありますので無駄な残業をなくす方法があれば教えていただきたいと思います。
A.労働時間は「労働者が使用者の指揮命令下に置かれ、労務を提供している時間」と定義づけることができるでしょう。ここで問題となるのは、上司からの指示なく行われた残業です。こういった指示のない冗漫な残業については、今日では以下の理由により厳しく管理する必要があるでしょう。
(1)労働基準法改正による60時間を超える割増賃金率の引き上げ
(2)未払い残業代請求の訴え増加
(3)労災認定時の過重労働性の判断基準
(4)政府の取り組み(ワークライフバランス)
などです。以下簡単に見ていきますと、
(1)については、直接貴社にはまだ関係がないのですが、いずれ中小企業にも 適用されるでしょう。この割増賃金率の引き上げにより、間違いなく人件費コスト増 になり、利益に影響を与えます。
(2)については、今日、新聞や雑誌等でも見かけるようになりましたが、裁判に対する労働者の意識の変化(会社を被告として争うことに対する慣れ)や各種紛争処理制度の確立、アドバイザーの増加(専門家など)などにより激増しています。
(3)については過重労働による病気や死亡の労災認定時において、労働時間ではなく在社時間が問題とされていると見られます(電通事件)。労災と認定されれば、安全配慮義務違反が問われることとなり、会社側の不法行為責任による損害賠償が請求されることになります。
(4)については政府の厚生労働行政の重点課題であるため、その取り組みの出来不出来が社会的な評価による影響を将来にわたって受けることになります。
以上見てきたところからもわかるとおり、「ダラけた冗漫な残業」は極力避ける必要があることがお解かりいただけたと思います。
次に、実務上、どのようにすればよいかを検討しましょう。
まず、第1に、残業命令の根拠です。会社が労働者に対し残業を命じるためには法的根拠が必要です。ここで必要になるのが、就業規則による時間外、休日労働及び深夜業に関する規定です。まず、この根拠となる規定があることが必要になり時間外の労働時間や対象となる労働者などの細則については労使協定等で定めることになります。
第2に、残業事前承認制の導入です。労働時間には使用者の指揮命令権が伴う訳ですから、残業についても上司の指揮命令が必要になります。命令も承認もなく行っている残業を一掃させる決め手とも言えるものがこの残業事前承認制の導入です。残業命令を発する場合は別として、労働者各人からの計画的な業務遂行の申し出に関しては命令と同視して残業を認めていこうとするものです。ただし、この仕組みに関しては労働者にルールを徹底させ、運用をきちんと行うことが必要です。
第3に、労働時間数の適正把握です。この件については、裁判例でも判示されましたが、会社側に労働時間の適正な把握の義務が課せられているということです。
たとえば、貴社にタイムカードが設置してあるとして、その打刻時間通りに労働時間を認めれば全く問題はないのですが、貴社の相談内容から推測するにタイムカードの打刻時間がそのまま労働時間として認めがたいということであれば、残業申告書等の書類を調製し、上司の事前の承認を受け、さらに、事後に労働者の確認印を押印させる等の措置をとっておけば冗漫な残業は減るものと思われます。
また、貴社が自己申告による残業申請させているのであれば、その申告が命令と同視しうるものでなければならないため、より厳格な把握義務と管理義務が必要になります。すなわち、労働者に対して、労働時間の実態の記録方法、適正な自己申告方法の充分な説明を行い、また、上司による必要に応じた実態調査を行うなどの措置が必要です。会社の取り組みとしても、労働者の適正な申告の阻害行為の禁止(上限設定、残業削減等の社内通達や啓蒙活動の行き過ぎ)ならびに阻害要因の改善等の措置を講じましょう。
第4に、就業規則の服務規定への記載やその服務規定違反者に対しての残業禁止命令の規定化をしましょう。冗漫な残業すなわち、ダラけた労働については就業規則で明確に規制し、労働者の意識の変革を促す必要があります。
いずれにしても、冗漫な残業を防止するためには何よりも貴社の労働者の意識改革が欠かせません。そのためには、就業規則をきちんと整備し、徹底して運用することが必要になります。
また、必要に応じて「ノー残業デー」などの設定をしたり、残業の少ない労働者を表彰するなどのイベントを取り入れることも検討してみてください。そういった地道な取り組みを続けることによって労働者の意識の変革が図られていくものと思われます。















