法務Q&A

「売買基本契約書」の作り方

Q:当社の取引を見直してみたところ、契約書がなく、単に発注書と発注請書だけで取引をしている場合がほとんどであること分かりました。中には、電話のやり取りだけで、発注書すらない場合も結構ありました。
そこで、今後は契約書をきちんと作成しようと思うのですが、とりあえず、書店で契約書のひな形集を買ってきて、これを利用しようと考えています。その場合に、何か問題はあるでしょうか? また、売買基本契約書を締結するにあたって、気を付けるべき点があれば教えてください。

A:売買基本契約書とは、継続して発生する売買契約(発注と納品)の前提となる約束事を定めるもので、取引関係に入るにあたっては、非常に重要な契約書という事ができます。

一般的には、売買基本契約書に入れるべき項目としては、以下のようなものがあります。

  • 対象物、対象業務
  • 独占権の有無
  • 商品以外の付随サービスの範囲と内容
  • 知的財産権の処理
  • 販売・営業方法についての制限
  • 個別売買契約の成立時期と手順
  • 数量、単価(又は、その決定方法)
  • 納期
  • 検収・納品の方法
  • 所有権の移転時期
  • 不可抗力が発生した場合の損害の負担(危険負担等)
  • 瑕疵担保その他責任を負担する範囲・条件
  • 付随的な義務(最低取扱数量、地域制限、競業禁止等)
  • 代金の計算方法、締日、支払い方法
  • 期限の利益喪失約款
  • 義務違反の場合の処理
  • 第三者との間のトラブルに対する対応義務者及び費用負担
  • 契約の停止又は解除の要件、手順、方法
  • 基本契約の個別契約のそれぞれの解除の効力
  • 有効期限と更新の方法
  • 契約終了後の拘束
  • 事情変更の場合の対応
  • その他、契約の実効性を確保するための手段(公正証書等)
  • 準拠法と裁判管轄
  • 連帯保証人
ただし、これらは、極めて一般的な条項の内容であり、具体的には、これら以外にも、個別の事情に応じて、さまざまな特約事項を付加していくことになります。 ここで注意をすべきなのは、これらの項目は、中立的なものではなく、売主側と買い主側のどちらに有利なのかによって、契約内容は当然に異なってきます。

例えば、「瑕疵担保責任」を例にとると、この点について何も定めがなければ、法律の規定に従って、原則として10年間または瑕疵を買主が知ってから1年間のいずれか早い方の時点まで、瑕疵担保責任が存続し、売主は、買主からの商品そのものの欠陥や仕様違いといったクレームについて、これを受けなければならない義務を負います。
しかし、これでは長すぎて売主にとって不利となるため、売主側が作成する契約書では、「商品の引渡し後1年間」などと短期間に制限してあることがあります。

一方で、売主側の最大の関心は、代金の回収という点にあります。
したがって、代金の支払い時期や支払わなかったときのペナルティーなどは、売主としては厳格に定めたいところです。しかし、買主としては、これらは自らにとっての制約となりますので、なるべく緩やかに定めることを希望するものです。

このように、契約書は、どちらの側から見るかによって、条文をどのように設定するかに違いが出てくるものです。
書店で売っている雛形的な契約書は、これらの点は、特にどちらにも有利不利はない、いわば中立なものになっているはずですので、そのような内容で本当に良いのか、十分にチェックしてから使用する必要があります。


雛形的な契約書を使う場合は、少なくとも、以下の点には注意が必要です。


  1. 必ず全条文を一度確認する。

  2. どちらの立場で作成されたものかに注意する。

  3. 自社に不利な内容がないか、確認する。

  4. 具体的な取引内容に即した条項になっているか、確認する。

  5. 取引や処理の流れをシミュレートする。

  6. 各段階ごとに、「何をされたら困るのか」を考える。

  7. 契約によって「確保したい目標」は何かを正確に分析する。

  8. 取引内容や当事者、対象物等の特殊性を特約として盛り込んで反映させる。

特に、3~6までは、非常に重要です。
自社の取引内容を現実にイメージしながら、各取引の工程ごとに適切な内容になっているかを確認し、特に自社の立場で、どのような問題が生じたら困るかという「リスク」をしっかりと洗い出して、それらがすべて契約条項に盛り込まれているかを確認する作業は不可欠です。
なぜなら、契約書というのは、「いざ」というときにはじめてつかわれるものなのですから、どのような「いざ」というときがあり得るのかを、しっかりと検討しておかないと、的外れな契約書になってしまうからです。

できれば、取引基本契約書など、根幹になる契約書は、弁護士に相談した上で、自社の実情をしっかり盛り込んでもらって、きちんとしたものを作成しておくことをお勧めします。
一度作ってしまえば、以後は、取引のたびに新しいものを作らなくても、ちょっとした特約を付け加えるくらいで十分に使用できるでしょうから、使いまわすことは可能です。
このあたりのコストは、必要経費と考え、最初にきちんと整備しておくことが、その後の取引の安心につながります。

顧問弁護士契約を結んでおられる方であれば、その弁護士が、会社の実情をしっかりと踏まえた契約書を作ってくれるでしょうし、通常は、ちょっとした修正などは顧問契約の範囲内で対応してもらえるはずですから、しっかりと利用してください。

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田中 雅敏(たなか まさとし)

弁護士・弁理士

1971年山口県生まれ。1994年慶応義塾大学総合政策学部卒業。1999年弁護士登録。2001年弁理士登録。弁護士知財ネット理事。アジア弁理士協会会員。弁護士としてベンチャー企業から上場企業まで幅広く企業活動関連業務を行う。特に、企業活動における総務、人事労務、法務等の組織作りや契約書等の経営インフラ作りに積極的に関与する他、知的財産権全般に関する業務を扱い、経営支援やコンサルティング業務も手掛ける。常に依頼者とともに、目的達成に必要な方法を能動的に模索・提案し、依頼者にとってベストな解決を図ることを目指している。

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