法務Q&A

勤務態度の悪い従業員に対する対応

Q.当社は、比較的小規模の会社で、家庭的な社風が特徴です。これまで、特にトラブルもなく経営をしておりました。ところが、最近は事業拡大に伴い従業員も増えてきたため、どうしても目が行き届きにくくなってきました。

最近も、採用した従業員の勤務態度が悪く困っています。営業担当者なのですが、遅刻や欠勤が多く、同じ営業チームにもなじめないで同僚の評判も悪く、客先でもトラブルばかり起こします。注意しても、上司には口答えばかりですし、自分を正当化して反省がないばかりか、かえってクレームを言った客先に文句を言っていく始末です。

いっそのこと、解雇しようと思うのですが、このような場合に注意すべき点はありますか?

A.従業員の労務管理を行う上で、まず最初にチェックしておかなければならないのは、就業規則があるか否かです。またこれとあわせて、単なる就業規則だけではなく、服務規程、処理マニュアルなど、従業員が注意すべきことがきちんと文書として明確化され、それが従業員に周知されているかを確認しましょう。

特に、これまで「家庭的」に経営しており、特に労務管理を深く考えたことがないといった場合、就業規則がないか、あるいはあっても非常に抽象的でいざというときにあまり役に立たない場合が多いですので、この点も確認が必要です。

就業規則は、一つの事業所において常時10人以上の労働者を使用する状態であれば、作成しておく必要があります(労働基準法89条)。この人数には、パートタイマーなども含まれますの、注意が必要です。

就業規則は、労働者の過半数を代表する者の意見を付して、労働基準監督署に届け出る必要があり、変更があった場合にも、同様の手続きが必要です。

よく、「就業規則を作ると、余計な義務を課せられるから、就業規則は作りたくない」というお話をお聞きしますが、これは誤解です。労働者の労働条件については、労働基準法をはじめとする労働関係法によって厳密に規定されており、就業規則がなくても、労働者には一定の権利が認められています。

たとえば、有給休暇は、雇入れの日から6ヶ月継続勤務し所定労働日の8割以上出勤した労働者に法律上当然に生じます(労働基準法39条2項)し、時間外割増賃金についても、一日に8時間以上の労働をさせた場合は最低25%の割増賃金を支払う義務が法律上当然に生じます(労働基準法37条1項)。

したがって、就業規則に有給休暇や割増賃金の定めがないからといって、有給休暇の付与義務や割増賃金支払義務を免れるわけではありません。つまり、就業規則を作ったからといって、使用者にとって不利益になることは、基本的にはないと言ってよいのです。

逆に、労働者に対してきちんとした労務管理をする場合、就業規則や服務規程などがないと、使用者としての正当な権限行使ができないことになります。

たとえば、客先へ行く際の服装や態度、仕事の手順、守るべきルールなどは、いずれもきちんと就業規則や服務規程、その他の書面等で、事前に明確にしておかない限り、それらの決まりごとに違反したという理由で懲戒処分や解雇をすることは、非常に困難です。

もちろん、解雇に至らない懲戒処分等をする場合でも、就業規則等にその手順や根拠、懲戒事由などがきちんと決められていない限り、適法に懲戒権を行使することも難しくなります。

労務管理においては、「そんなのは社会人として常識だ」とか「いちいち文書にしなくてもわかるだろう」というのは、あまり通用しません。大事なことは、文書にして明確に示しておく必要があるのです。

つまり、就業規則や服務規程は、労務管理をする上で非常に重要かつ根本的なツールであると言えるのです。

就業規則等を制定している場合、服務規律や懲戒事由の欄を注意して見てみてください。
これらの部分が、自社の業務内容に適合したものになっていない限り、適法な労務管理は難しいと言えます。

ですから、この部分はひな型等をそのまま使うのではなく、自社の取り扱い製品(サービス)、客層、自社の信頼維持の上で最も重要なものは何かといったことをじっくりと考えて、それらを守るために必要な遵守事項を、なるべく具体的に記載するようにしてください。

次に、就業規則等がきちんとしているとして、具体的に懲戒処分や解雇をする場合に気をつけるべき点があります。

それは、「事実関係を根拠資料に基づいて確定する」ということです。

欠勤や遅刻についても、タイムカードがない場合には、別途記録を取る必要があります。単に遅刻や欠勤の記録のみではなく、その理由、本人の報告の時期・内容、程度、態様、業務への影響等、具体的な事実関係をしっかりと記録する必要があります。

さらに難しいのは、たとえば「客先での言葉遣いが悪い」とか「チームワークが悪く同僚から浮いている」といったような場合です。このような場合は、抽象的に「態度が悪い」とか「非協力的」であるといったことでは、懲戒処分や解雇はもとより、それ以外の不利益な取り扱いをすることも困難です。

具体的に、いつ、どこで、誰に対して、どのような具体的な言動があり、それによってどのような影響が発生し、業務との関係でどのような不利益が会社にあったのかといったことを、なるべく正確に記録しておく必要があります。また、このような点を記録した報告書等を作成する以外に、たとえば客先からのクレームのメールやFAXなどの「根拠」となる資料は、きちんと保存しておく必要があります。

労務管理の基本は、事実関係の把握と根拠(証拠)の確保にあります。

具体的な問題対応の手順は、次のようなイメージになります。

  1. 事案の把握と、初期段階での始末書ないし報告書等の資料確保

  2. 適切な業務命令権等の行使(問題社員を生かす方策を探す。注意や指導。)

  3. 人事異動等による解決の模索(配置転換や転勤など)

  4. 懲戒処分や注意処分の検討

  5. 懲戒処分(軽いものから順に。自力更生を促しつつ、繰り返す場合には徐々に重くする。)

  6. 懲戒処分としての解雇等

  7. 必要に応じて、民事訴訟、刑事告訴の検討(詐欺や横領などの刑事事件や、損害賠償請求などの民事事件を検討)

このうち、5の部分には特に注意が必要です。勤務態度が非常に悪い場合でも、会社が特に注意や指導をするといった形で自力更生の機会を付与せず、いきなり解雇したような場合には、過酷すぎて解雇は無効と判断される場合があります。

実際の裁判例でも、一年間に欠勤72日、遅刻早退99回と勤務状態が不良であったため解雇された場合に、勤務状態の不良についてそれまでに会社において何らかの制裁措置をとるなどして警告した事実はなかったことからすると、いきなりの解雇は過酷であって無効とされています(東京地裁S50,9,11 神田運送事件)。

これなども、適切に手順を踏めば解雇も十分有効であった事案であると思われます。

いずれにしても、労務管理は、日々の積み重ねが大切です。

規則や規程を整備し、日常の労務管理をきちんと行い、適切に指導や注意をして従業員のモラルと質を維持する一方、問題がある場合には、早期に事実関係を把握し、適切な自力更生の機会を付与し、どうしても修正が困難な場合には、他の従業員のモラル低下を防ぐ意味でも一定の時期に解雇を含めた厳しい処分をするなどの対応が必要でしょう。

ご質問の事案では、解雇ができるかどうかは、就業規則等が整備されていることを前提として、単に「態度が悪い」といった抽象的なものではなく、具体的な問題事例やその影響を正確に記録して資料を確保していること、これまでに適切に注意や懲戒等を行って本人の自覚を促してきたことなどの条件が整わなければ、いきなりの解雇は難しいと言えます。

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田中 雅敏(たなか まさとし)

弁護士・弁理士

1971年山口県生まれ。1994年慶応義塾大学総合政策学部卒業。1999年弁護士登録。2001年弁理士登録。弁護士知財ネット理事。アジア弁理士協会会員。弁護士としてベンチャー企業から上場企業まで幅広く企業活動関連業務を行う。特に、企業活動における総務、人事労務、法務等の組織作りや契約書等の経営インフラ作りに積極的に関与する他、知的財産権全般に関する業務を扱い、経営支援やコンサルティング業務も手掛ける。常に依頼者とともに、目的達成に必要な方法を能動的に模索・提案し、依頼者にとってベストな解決を図ることを目指している。

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