「感染性のある疾病をめぐる法律と実務~労働法・コンプライアンス問題に関して~【前半】」(2009/10/27開催)
新型インフルエンザの再流行が懸念されています。その第二波に備え、当所ではこの新型インフルエンザの正しい知識とその対策を多くの方々にご提供するために「中小企業のための新型インフルエンザ対策セミナー」を開催いたします。予期せぬ脅威に対する事業継続手段のひとつとして、皆様の今後のビジネスにおけるご参考となれば幸いです。是非ともご参加いただきますようにお願いします。
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今日の前半でお話しさせていただくのは、新型インフルエンザ対策のお話ですが、インフルエンザに特化した話ではなくて、そのような「急変」が起きた時に、企業としての労務管理の問題としてどう対応すべきか、「応用」ができるようになるようなお話をさせていただこうと思います。

テーマとしては大きく分けて3つです。1つ目は、パンデミックが発生した場合の対応です。2つ目は、自社の従業員が罹患した場合の対応をめぐる諸問題ということで、そして3つ目の大きな柱としましては、対外的な対応をめぐる問題です。事業活動休止によって債務が履行できない場合ですとか、従業員が顧客に対して感染させてしまった場合、あるいは集会・イベントの開催自粛勧告を無視して開催することができるのだろうか、というような話をさせていただきたいと思います。
前半のお話で法律上はここまでできますよ、これをしても構わないですよ、という話。後半のコンプライアンスの話はここから先の話なんです。法律的にはこれはできるし、こっちでもあっちでもできるんだけれども、企業としてどちらを選ぶべきなのか。法律を形式的に守るという話ではなく、企業として、どちらに進むのか、例えばよく使われる言葉で言えば、社会的貢献、つまりCSRという言葉が使われていますが、企業としてどちらへ行く方が、本来の法の趣旨に合致している動き方なのか、そういう事を考えて実質的な判断をしていきましょうというのが、コンプライアンスの話です。そういう話を後半にさせていただいて、最後に自社でインフルエンザの大量感染といった異常事態が発生した時の、その事後対応ですね。特に、外向きにそのような情報をオープンにするの方がいいのか、黙っておいてもかまわないのかという、その辺のところをお話しさせていただきたいと思います。
早速中身の話に進んでいきたいと思いますけれども、今日はできるだけ、抽象的な話よりも具体的な話をした方が分かりやすいと思いまして、各テーマごとに設例を用意してきました。
それでは、1つ目の設例という形でご紹介したいと思います。すみません、博多でお話をさせていただいていますが、私の活動の本拠は大阪でございますので、用意しました事例も、大阪に本社があるA社というように大阪ベースになっています。
設例1
大阪に本社があるA社ですね。関東地方において、新型インフルエンザが蔓延している時期に、千葉の自社工場でトラブルが発生した。その復旧作業にはどうしても本社から人をやらなければいけないということで、技術主任者Xを大阪から出張させようとしたけれども、技術主任者Xは、「新型インフルエンザが蔓延している千葉になんか行きたくない」と言って、出張を拒否している。こういう場合に、「何を言っているんだ、行ってこい。」と言って行かせてもいいものだろうか、こういう話です。
この話を法律的に、どういう点が問題になるかということを説明しますと、結局A社は業務命令によってXを千葉の工場に出張させることができるか、つまり、業務命令を出せるのかという問題と、次に、業務命令を出せるとして、業務命令による出張を拒んだXに対して、懲戒することができるのかという問題。こういう問題を含んでいるということでございます。
そこで、まずは、「出張」というものを労働法の観点から考えていきたいと思います。出張というのは、通常の勤務地を一時的に離れて、用務地に赴いて指示された特定の業務を処理すること、というふうに概念的に説明されています。
要するに、使用者と従業員との関係は雇用契約で結ばれているわけですよね。今日お話しすることは、何も新しい話ではないんです。「新型」インフルエンザ対策だからと言って、何か新しい事を考え出さなくてはいけないのかとお思いかもしれませんが、そうではないんです。皆さんが日常的に接している労務管理の問題で、新しい、よく知っている「あ、この問題なんだ」ということをわかっていただいて、「だったらこれで対応できる。いけるな。」というような応用をどんどん利かせていただくために、この問題は、実はこの問題なんですよ、という話をどんどんさせていただきます。

それで、結局、出張というのは、使用者には、労働契約の内容として、業務上の必要があれば、労働者の労務の提供場所を指定することができる、という権利があるわけですよね。どういう労務を提供していただくのか、「あなたはここで、この内容の労務を提供して下さい」というふうに決める権利は、使用者側にあるわけです。その内容の一環として、「あなたはここで働いてください」、「ここで労務を提供してください」、といったことを指定できるわけです。ですから、千葉の工場に行って労務提供をしてきて下さいというように、業務命令として一方的に命ずることは、法律的にはできるわけです。
ただ、原則はそうなんですけれども、かと言って何でも命令できるかというと、そういうわけではありません。全く必要がないのに、嫌がらせのように「お前ちょっとあそこに行って、恐い目にあってこい。」というような出張命令が許されるかと言いますと、それは許されない、ということはおわかりだと思います。それを法律的にきちんと説明しますと、「労働者側に、甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える場合は、出張命令権の濫用になる。」ということになります。難しい言葉ですけれども、要は、最後の「濫用」ということですね。そういう権利があるからといって、みだりに使ってはいけないということです。ですから、その濫用というところがキーなんですね。基本はここです。
それでは、「濫用になる」というところを、具体的に考えていきたいと思います。それを考えるにあたっては、結局、新型インフルエンザが弱毒か強毒かというところで結論が違ってくると思われますので、場合分けをして考えていってみたいと思います。

まず、弱毒性の新型インフルエンザが流行している場合は、結局、その出張の必要性の高さ、出張時期によって、危険地域への出張でも出張命令権の濫用とは言えず、適法となります。弱毒性ですから、リスクや危険の程度が低いわけです。そうすると、その反対側にある得られる利益というか、必要性というものがキーになってくると思うんですけれども、必要性がある程度あれば、弱毒性の場合は適法だというふうになってくるのかなと思います。
その必要性についてもう少しだけ詳しく説明しますと、緊急性、つまり、今行かなければいけないのか、ということです。今行く必要がなければ、ちょっと待ってから行けばいい話ですから、そういう意味で、「緊急性」ということがキーワードになってきますし、また、他の従業員との「代替性」もあります。一回罹るともう一回罹る可能性がないのであれば、一回罹った別の人に行ってもらえばいいでしょうし、あるいは、耐性を持っている人が他にいるのであれば、その人に行ってもらえばいいわけです。このように、緊急性と代替性というのがキーワードになってきますけれども、これが、「どうしても今行かなくてはいけない、お前しかいない」ということであれば、弱毒性の場合は、出張命令も適法だということになります。
次に、適法に業務命令を出せるということになりますから、それを拒否した場合はどうなるのかといいいますと、出張を拒否した場合には業務命令違反ということで、懲戒ができるということになります。勿論、絶対に懲戒して下さいと言っているわけではありません。「できる」という話ですからね。ただし、懲戒はできると言っても、出張の必要性があったことが前提ですし、それから安全確保措置をしていて、十分に説明をしておくことが必要となります。
何故かと言いいますと、出張拒否は、ちゃんとした必要性や、「あなたしかいない」ということをちゃんと説明していなかったとすると、言われた方も、必要性がないのなら、「いや、そんな危ないところ嫌だ」というふうにすぐなるわけですよね。
ですから、その拒否が、「正当な拒否だ」ということになるわけです。ちゃんとした情報が与えられていないから、誤解に基づく拒否だから、それはその人の真意に基づく拒否ではない、ということで、それを理由に懲戒できなくなるということになってしまいますから、懲戒をしようと思ったらと言うか、業務命令として出すのであれば、その必要性、緊急性、非代替性ということをきちんと説明しなければなりません。
もう一歩踏み込んで言えば、形式的に説明するだけでは駄目です。本人に理解させなければなりませんから、口でパラパラっと言うだけで、本人の方が「は?」といような状態でありながら、「うん」と言わせたというのでは、やはり駄目ですよね。これは、こういう問題に限らず、労務管理の場面で、例えば、解雇が有効なのか無効なのかとか、出向の場面や、期間雇用の契約更新などの場面で、私たちは、こういった場面で「言った言わない」というような話になって痛い目にあっておられる会社、「そういう話はきいてません」という「言い逃れ」を嫌という程味わっておられる担当者の方に、日常的に接していますが、こういったいろいろな場面に共通する話で、従業員に対して会社として説明をする時は、形式的に説明をするだけではなく、本人に「分からせないといけない」ということです。
そのための有効な方法は、やはりペーパーでするということです。ただ、その「ペーパーで」というのも、ただ渡しただけ、というのだとダメなんですね。実務の現場は、そう甘くはないのです。例えば労働審判ですとか、裁判所の仮処分の場面だとか、あるいは地方裁判所の訴訟の場面になりますと、使用者側の会社の方々は、私ども代理人弁護士に、「先生、大丈夫です。彼には説明の紙も渡してありますから。」というふうに説明してくれるんですね。そうしますと、「それで知らないという話はないよね。」ということで、悠々裁判所に出かける。ところが、裁判所に行ってみますと、従業員の方は、「そんな紙もらっていません。」と言出されるわけです。会社側にしてみれば、「よく平気でそんな嘘を吐くな」という話になるんですけれど、もう十中八九間違いなく、言った言わない、もらったもらってない、そんなやり取りになってしまいます。
裁判所は、両方の言い分が違うわけですから、一方的にどっちかに乗っかるわけにはいきません。そうしますと、こういう判断の場面では、ちゃんと説明したかどうかが問題になってきますから、「ちゃんと説明した」と言っている会社側が立証責任を負わされてします。従業員の方が、「そんなの聞いていません」と言った場合、有効な立証手段がなければ会社の方が負けてしまう可能性が高くなるという図式です。
ですから、できるだけペーパーでやるということですね。それも渡しっきりにしないで、例えば、一つの方法としては、命令書を渡すというような場面であれば、そのコピーを手元にもう一枚用意をして、そのコピーに、「本日、何月何日に受領しました」とサインをさせる。「受領しました」の言葉がなくても、せめて、日付けとサインだけでもあれば、これを「受け取ったじゃないか」、「だからサインしたんじゃあないか」と後で使えるわけです。そういうように、場面場面で、形式的に説明するだけではなくて、実質的に、本当に「説明した」と言えるように、しかもその証拠を残す、ということを心掛けていただきたいと思います。ちょっと脱線した話が長くなってしまいましたが、結局、そういうことで、きちんと説明しておかないと、懲戒の前提としての説明ができていないという評価を受けてしまう、ということになります。
さらに、懲戒の程度はどうなのかと言いますと、出張命令を拒否したからといって、いきなり懲戒解雇ができるかというと、そういうわけではないですよね。それは、やはり就業規則に書いてある懲戒の程度による、下は注意、けん責から、一番上は懲戒解雇まであると思います。ですから懲戒の程度は、その出張命令の必要性の程度とのバランスにおいて、ここで行かなかったら会社が潰れてしまうというくらいの必要性があったなら、それだけのダメージを業務命令違反によって会社に与えたということになりますから、それなりの懲戒はできる、ということになるでしょう。「出張に行くのは他の人でもよかったんだけれども」とか、「出張拒否されてもそんなに損害はなかったよね」というような程度であれば、注意やけん責という程度で終わるのかなと思います。そういう必要性の程度とのバランスということになります。

ただ、それは実質的な話であって、本当に懲戒の手続きまでしようと思うと、就業規則にそういう事項が懲戒事由としてきちんと書かれていないといけない、ということも必要です。懲戒手続は、刑事手続ではないですけれども、人に一定の罰を与えるわけですから、憲法31条で保障されている適正手続の保障という、ちゃんと手続きはしておかなくてはいけないという適正手続の保障の一対応としての罪刑法定主義が適用されるということになります。罰を与えるにあたっては、どういうことが罪になり罰が与えられるのかということ、どういう手続で罰を与えられるのかということが、ちゃんと規定に書いておかなくてはいけないということが当てはまりますので、今までお話ししてきた事は、実質論的には懲戒できる、業務命令違反で懲戒できるんだけれども、本当にしようと思うと、手続的な要件として就業規則に懲戒事由として書いていないといけないということです。
このように「会社が命じる海外出張を拒んだ時」と、こういうふうにストレートに書いてあればさっと、この懲戒事由に該当するので懲戒する、と言えるということになります。会社にお帰りになって、一度、御社の就業規則をご覧いただきたいと思います。このように出張命令違反の場合に懲戒できるというようなことが懲戒事由に挙げられているか、洩れていないか、ご覧いただきたいと思います。私も、歴史ある立派な会社の就業規則を見て愕然としたことがあるんですけれども、懲戒事由ではなくて解雇事由の話なんですが、30項くらい解雇事由が書いてあるんです。それで、できが悪い人、最近でいう「不適応社員」といいますか、能力がない方に辞めていただこうと思って、「これだけ書いてあったら、該当する解雇事由はあるよね」と、ざっと見てみますと、なんと、30項もあるのに、能力不足に関する条項が一つもなかったということがありました。ですから、もう一度、ここでお話しています懲戒事由や、あるいは解雇事由の部分について就業規則の条項をよく見直しておいていただければと思います。

今度は、強毒性の場合の話をしたいと思います。強毒性の場合は、弱毒性と違って、生命・健康の高度の危険性を伴います。強毒性の場合は、出張に行ったらほぼ感染して、かなりダメージを受けるということですから、やはり強毒性の場合ですと、業務命令は出せないのではないかと思います。端的に言ってみれば、合理性を欠くということです。会社にとっていくら必要だからといっても、極端な話、死に至ることが分かっていたら、「会社のために死んでくれ」と、結局、そう言っているということになります。それほどの高度の危険性があるのであれば、会社の必要性とのバランスというような問題ではなくなり、そもそも無理だろうと思います。たとえ死に至らなくても、2、3ヶ月寝込んでしまうような重篤な症状になることが分かっていながら、「会社のために入院してくれ」と言えるかといえば、それも無理でしょう。ですから、出張の必要性の高さに関わらず、出張させることはできません。
それであるにも関わらず、会社が「行ってくれ」と言って、本人が「分かりました」と言って、出張に出かけた、それでもってウイルスに感染し、重篤なダメージを身体に受けたという場合は、会社がその従業員に対して損害賠償責任を負うことになると思います。その根拠というのは、雇用関係に基づいて、使用者は従業員が安全に労務を提供できるように、従業員の安全を確保する義務、安全に配慮する義務、安全配慮義務というものを負っているということが、これまでの裁判例の積み重ねで認められているところで、それがもう確立された裁判上の考え方になってきています。ですので、安全配慮義務違反で損害賠償責任を負うことになるでしょうし。
逆に会社が業務命令を出さなくでも、「これは会社のために必要だ」と従業員自らが自発的に行こうとする場合にも出くわすかもしれませんが、それを会社が知っておきながら、止めなかった場合、それでその従業員が強毒性のインフルエンザに感染してしまった場合は、止めなかったことについて責任を問われるという可能性はあると思います。そこは気を付けていただきたいと思います。

基本的な弱毒・強毒の場合の考え方はこういうことなんですけれども、さっきまでははっきりしている場合の話をしていましたが、はっきりしない場合はどうするか、というのが次の話です。これは今年の2月の時点で厚生労働省が出したガイドラインですが、2月の時点ですからえらく大層に構えていたころですね。これを見ますと、「世界的に拡大するにつれて・・・最大10日間停留される可能性があることを鑑み、発生国以外の海外出張も原則中止されることが望ましい」と書かれています。ここまではっきり国が言っている場合は、これに従えばいいんですね。それがまだはっきりした話が出ていない段階ですとか、流行中の新型インフルエンザが弱毒か強毒か分からない場合は、どうしたらいいのかという話です。
やはり何らかの形で弱毒性であるというような情報が入手できない限りは、強毒性を前提にして行動するべきだと思います。ですから、どちらか分からなかったら、企業としては従業員の安全配慮を最優先にして行動するべきではないかというふうに思います。そして、やはりこういう病気に対する対応や情報はどんどん日々新しくなってきて、それに応じてどんどん変えていけばいいわけです。最初は分からなかったら、強毒性を想定して行動すればいいんだけれども、弱毒性でいいのではないかという何らかの情報が得られたら、ころっと変えればいいわけです。ですから、反対からいいますと、どれだけ情報に敏感に反応するかということの方がむしろ大事だろうと思わっております。
設例2

では、次の設例に行きたいと思います。マスクの問題です。こういう設例を用意しています。同居している子どもが新型インフルエンザに罹患したXが、大阪本社の事務所内でしきりに咳をしている。嫌ですね、これ。本人は「単なる風邪」と言っているが、周りの従業員は新型インフルエンザではないのかと心配している。どうしますか、皆さん。取り敢えず、「マスクくらい着けよう」という話になりますよね。それを強要できるのか、という話です。
これを法的に説明しますと、「業務命令により、Xに事務所内でのマスク着用を強要することができるか」という問題で、「業務命令として」というのがポイントです。それで、次に、「マスク着用を拒んだXに対して懲戒することはできるか」、これはもうセットの話として問題になってきます。

マスクについては、厚生労働省がこういうガイドラインを出しています。ちなみに、医療の現場に接しておられる方々は、医療関係のメディカル情報についてもっとビビッドに接することができると思いますが、我々のような法律家は公式にオープンにされた、こういうガイドラインなどを見ざるをえないのです。が、逆を言えば、こういう情報は、厚労省のホームページなんかを毎日見ていれば、日々更新されていて、それをリアルタイムで確認できますので、法務担当の方々は一日に一回は厚生労働省のホームページを見にいくぐらいの、ことはあってもいいのかなと思います。
それで、話は戻りますが、このガイドラインに書かれているのは、「マスクを着用する効用は現時点(2009/10/27)では十分な科学的根拠が得られない」としつつ、「一般的な企業の従業者においては家庭用のマスクを使用することが望まれる」という、何か、よく分かるような分からないようなことなんですね。結局、よく分からないんですけれど、ただ、「マスクを使用することが望まれる」という結論は、明確にされていて、国がオーソライズしていますのです。これを捉えて、安全な職場環境維持のためにマスク着用を義務付けることに合理性があるというふうに国が言っている、と考えるわけです。

このように合理性があると判断されますから、業務命令によってマスクの着用を強要できるというふうに考えます。この点については、もう業務命令が出せると思っていただければいいと思います。とにかく、錦の御旗はここなんですね、安全な職場環境維持のため。これは、使用者としての義務なんです。もう少し具体的に言えば、本人の問題ではないわけです。周りの人間、周りの従業員の安全を確保するためには何が必要かということで、そのために、必要性に一定の合理性があるわけですから、それを強要することはできる、業務命令が出せる、こういうロジックです。ですので、着用を拒否した場合には、業務命令として懲戒ができる。ただし、ここでもやっぱり着用の必要性を十分に説明しておかなくてはいけないということですね。「いいかげんな説明しか受けていなかったから、私は着けなかったんです。」というふうに、懲戒しようとする時に争われるわけです。ちゃんと必要性を説明しなくてはいけないということですね。懲戒の程度については、先程ご説明したように、違反の程度によるということです。
マスクについては、どうもマスコミの報道を見ていましてと、マスクをしている人自身が罹らないということよりも、マスクしている人が、他の人にうつさないというためには若干効きがあるというように報道されているように思います。咳をしたりして、唾液などが飛び散らないようにすると、そこにはやはり合理性があると思いますので、この業務命令を出す時には、「周りの人たちを守るためなんだ」、「この職場を安全に保つためにどうしても必要なんだ」ということを説明することが、合理的な説明になるのかなと思います。うつさないための強要ということですね。
設例3

では、三つ目の設例にいきたいと思います。今度は危険地域の旅行禁止ですね。こういう設例を用意してきました。強毒性の新型インフルエンザがY国で発生したことを受けて、A社では従業員に対して、Y国には行かないようにという通知をしていた。しかし、従業員Xは、既にY国への新婚旅行を予定しており、Y国へ行くと言って聞きません。会社としてどうするか、ということですね。
これは、海外出張がよくある、というような国際取引のある会社で業務でそのような危険な場所に出張しようとする場合ですと、業務命令で「行くな」と言うことはできるでしょうが、そのような場合とこの設例の場合とどこが違うのかと言いますと、これは、新婚旅行なんですよね。どなたかが今おっしゃいましたが、そう、プライベートなんです。そもそもプライベートに、あるいはどこまでプライベートに関れるのかということなんです。
ですから、法的に言えば、危険地域への旅行を禁止する業務命令を出せるかということなんですけれども、プライベートに関わるわけですから、何か理屈を考えないといけないわけですよね。ただ単に、「お前、家で酒を飲むなよ」という全くのプライベートな命令は、これは、業務命令で出せるわけがないと分かるわけです。とにかく、会社が業務命令を出せるのは会社の業務に関連すること、もっと言えば、従業員から労務提供をしてもらう、その労務提供に関わることでない限り業務命令を出せないわけです。
ですから、その従業員から提供される労務に関連付けないと正当性を確保できないということです。法的に言い直しますと、「会社に対する良好な体調での労務提供を確保するために、プライベートな私生活における行動を制限することを内容とする業務命令を出せるのか」という問題だということです。
この問題を考えるについては、あらためて、そもそも業務命令とは何なのか、ということから考えていくようにしたいと思います。業務命令の根拠については、富士重工事件という有名な最高裁の判例があります。
ここでまたちょっと脱線ですけれども、裁判例に事件名が付いているのですが、そこに会社名が入っているんですね。これが労働事件の特徴なんです。通常の民事の損害賠償請求などの事件ですと、例えば、原告の名前で事件名を呼んだり、あるいは、交通事故事件とかいうように抽象的な事件名で呼んだりするところなんですけれど、これが労働事件になりますと、被告の企業の会社名で事件名にするというのが習わしになっているんですね。労働判例集には企業名がズラッと並んでいるわけです。そうすると、ただでさえ訴訟事になって、例えば損害賠償を払わなくてはいけない、未払い賃金を払わなくてはいけないというところで、経済的にダメージがある上に、こういう形で公表されることで、「あの会社はこんなことで揉めていたのか」とかいうことで、言ってみれば有名になってしまうわけです。それによる企業の信用の下落ということもあるかもしれません。
そういう意味で、やっぱり労働事件は、基本的には、最後は判決で終りたくないな、というふうに思っています。ですから、私はもう、日々そういう事件に関わらせていただいておりますけれども、示談で解決できないか、団交で終われないか、地労委での和解で終われないか、仮処分でも和解で終われないか、労働審判でも調停で終われないか、最後は訴訟になってもやっぱり和解で終われないかということを試みるんですけれども、やっぱり最後は判決に行ってしまうということはあります。でも、やっぱりこういう形で有名にはなりたくないですね。

ちょっと脱線してしまいましたけれど、この富士重工事件ではどういうことを言っているかというと、業務命令についてこういうことを言っています。「企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものである。企業は企業秩序を維持・確保するためこれに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示・命令することができる」。ちょっとややこしいですが、要するに赤で書いた部分ですね。「企業の存立と事業の円滑な運営維持」、ここがキーワードですし、企業秩序を維持・確保するためだったら命令は出せますよ、ということですよね。キーワードは「企業秩序の維持・確保」。ここなんです。

では、私的行為を制限することは、企業秩序の維持に繋がるんだろうか。次の問題としては、そこに進んでいきますね。それについて裁判所が判断しているのが、国鉄中国支社事件。今のJRですね。これは昭和49年の古い裁判例なんですけれども、そこではこういうことが書かれています。「従業員の職場外の職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に直接関連するもの、及び企業の社会的評価を毀損する恐れのあるものは、企業秩序に規制の対象となる」。
国鉄の裁判例の多くで問題にされている場面は、業務外で、いわゆる政治活動、プライベートな場面での政治活動をする時にそれを規制することができるかといった場面でして、非常に政治色が強いんですけれども、その中でも抽象的な規範としては、こういうことが述べられているんです。
そうしますと、プライベートなことであっても、企業の社会的評価を毀損する恐れのあるものなら規制できるんだ、ということで、「あそこの会社は従業員が新婚旅行に行って、インフルエンザに罹ってきている。従業員の管理が全然できない会社だね。」という社会的評価を毀損する恐れがあるということで、ちょっと新婚旅行も規制できるのではないかなと、一瞬思ってしまうわけですよね。そう思いながら私も心配なので、裁判例を探ってみました。
その結果明らかになったことは、結局、プライベートに関することで、業務命令での禁止とかいう、これに反する場合の懲戒が認められたのは、裁判例上では職場外での犯罪行為の場合に限られているんですね。分かりやすく言えば、そんなことをすると犯罪になるから、してはいけない、というようなレベルでないと、なかなかプライベートを規制することを業務命令の形で出すことは認められていないんです。そのことから考えますと、強毒性で感染力が大であっても、危険地域への新婚旅行を業務命令として禁止することは、やっぱりできないのではないかなという結論に達しました。
そこで、さらに次に、その結論を前提に、企業としては、会社としては、何をすべきかということを考えていきますけれども、やっぱり帰国後出社を認めずに、感染していないことが明らかになるまで自宅待機をさせる。これはできるでしょうね。できるというよりも、むしろ、しなくてはいけないでしょう。そうでないと、感染している可能性のある人間を、従業員の中へ放つわけですから、当然、安全配慮義務違反が問われることになるでしょうから、ここはむしろ義務というふうに考えた方がいいんじゃないかなと思います。

ただ、それだけしかできない、ということでは、理由は別でも、同じことをして危険に迫ろうとする従業員が続かないか、会社としてももしものことがあっては大変。やっぱり何か、ペナルティを課すとか、行かさないようにできないか、やっぱり思いますよね。労務管理、従業員管理としては、ペナルティというわけではないですが、やはり、それは一社会人というか、従業員として望ましいことではないことを行われようとしている、という観点から、禁止したり、何かできないか、と考えましたけれど、結局できるのは人事考課の場面での話かと思います。
渡航しないように告知しているにも関わらず感染危険地域に渡航した場合は、勿論、渡航の目的にもよりますが、実際に罹患して出社できなくなったか否かに関わらず、そういう危険を冒したということは、言ってみれば自己の体調管理という部分でまずいのではないかということで、人事考課においてマイナス評価をする、常にというわけではないでしょうが、これは許される余地があるのではないかと思います。
ただ、人事考課でマイナス評価しようと思っても、会社の考課表の考課ポイント項目に体調管理がなければ、「×」を付けられないわけです。ですから、もう一度会社にお帰りになって、人事考課のポイントの所で、ここに書いております、「業務遂行に対する管理能力、責任感」とか何か、それらしいことが書かれているかどうかを確認いただくとともに、こういう場合には、そういった項目の許される範囲で、人事考課マイナスをしていくという形で再発を防止するということですね。以上が1つ目の大きな項目のお話です。
次に、自社の従業員等が罹患した場合の対応をめぐる諸問題をお話ししていきたいと思います。ここでは、ケース1、2、3とありますが、基本的には被害を会社で拡散させないための方策として、会社はこういうことができるのだろうか、というものです。要するに、感染が疑われる従業員に自宅待機命令が出せるのか、その場合は給料を払わなくてはいけないのかという問題と、罹患の事実の報告を強制することはできるのかという問題と、そうやって開示をしてもらった場合の管理、こういう問題についてお話ししていきたいと思います。
説例1

従業員Xは、新型インフルエンザが猛威を振るっている神戸から出社している。大阪本社ですと、神戸は隣なんですね。ここら辺で言うと、博多の本社に猛威を振るっている北九州あたりから通っている。もっと近いかな、よく分かりませんけれども、大阪本社に神戸から出社している。ある日、従業員Xはくしゃみが出て少し寒気がすると話しており、熱を計ってみると37度5分なんですね。微妙なんです、この37度5分というのが。一番しんどい体温とも言われていますが、これをどうするかということですね。
この問題を考えるについては、要するに自宅待機命令を出せるのかということと、そして、出せるとして、その間給料を払わなければいけないのかということですけれども、自宅待機にできるかどうかということと、給料を払わなければいけないのかというのは、分けて考えるよりもセットで考えていった方が分かりやすいので、以後はセットでお話を続けさせていただきたいと思います。
セットでお話しするとして、この話に含まれている問題点を整理しますと、自宅待機させることができるかということと、自宅待機させている間に給料を払わなければいけないのか、さらに、払わなければいけないとして、全額を払わなくてはいけないのか、という問題点が含まれています。

そこで、まず、従業員の側に原因がある場合をイメージしてみますけれども、従業員の側に原因がある場合はどんな場合かというと、私病ですね。普通に病気で、従業員が本来の労務提供ができない場合は、使用者は出社を認める必要はないので、当然自宅待機を命ずることができるわけです。これはもう、普通の病気の時に別に会社が自宅待機を命令しなくても本人が休んでくれますけれども。もっと言えば、例えば高熱が出て、およそ仕事にならない、それを無理して出てきている場合は、「お前、出てきても働けないじゃないか、労務提供できないじゃないか、帰れ」と言うのは、これは自宅待機命令ができるということなんです。
そのような状態で、無理して出てくる従業員には「もう帰れ、自宅待機だ。治ってから出てこい。」と言った場合に給料を払わなければいけないのかというと、それは自分側の事情で病気に罹って、賃金支払いの対価である労働の提供が自分の責任でできないわけですから、それに対する対価も当然賃金として払わなくていいということですね。これはもう日常的に、普通に、病気で休む人には給料は払っていない、もちろん病気休暇規定というものがあって、それに従って一定の給付がなされるという場合はあるでしょうが、そういう特別の取り決めがなければ、病気で休む人には払わないでいい、無理して出て来た人に対しては、自宅待機命令ができるという、これが原則ですね。これは分かりやすい話です。
その前提に立ってケース1を考えてみたいんですけれども、ケース1はどんな場合かというと、熱はあるものの、Xによる労務提供は可能であるわけです。37度5分と微妙ですけれども、頑張ったら働けるわけです。ですから、労務提供ができないから自宅に帰れという命令の仕方は、ケース1ではできない、ということになりますね。
結局、この場合に、疑わしい人間に自宅待機を命じるというのは、「労務提供できないから」ということは理由にできないわけですから、会社の判断で自宅待機させるということになるわけです。
労務提供できるんだけれども、会社の判断で休ませる。つまり、このケース1は、会社側の事情、判断により自宅待機命令を命ずる、ということになるわけです。会社の判断でということになると、給料を幾らかでも払わなければいけないのではないか、という疑問が出てくるわけですよね。

では、そのように、使用者の側に原因がある場合について、理屈の問題を考えてみますけれども、ちょっと新型インフルエンザからは外れますけれど、典型的な例としてとして具体的に頭にイメージしていただきやすいと思いますが、世界的な原料不足などで原料の提供を受けられず、工場の生産がストップする場合、労務の提供を受けることができないから、自宅待機を命ずることはできるわけです。
これは、結局材料がないわけですから、工場を動かせない。来てもらっても労務の提供を受けることができない。ですから、「帰って下さい。」「出社しないでください。」と言って、自宅待機を命ずることはできるわけです。でも、給料を払わなくてはいけないかどうかは、別の問題なんです。
こういうふうに、使用者の側に原因がある場合は、やっぱり全額を払わなくてはいけないのだろうかというのが問題なんですよね。こういう類のことについて、理屈の問題を考えていきましょうというのは、法律にはどう定められているのか、条文がどうなっているのか、見ていきましょうというのが、ここからなんです。契約の内容について取り決めがない場合はどういうふうにするのかということが、どういう法律に書いてあるか、ということを見るわけですね。そして、雇用契約と言っても、私と私、民・民の契約ですから、結局適用される法律は、民法なんですね。

皆さんの中でも、民法をお勉強された方に536条1項と言えば、「ああ、あの条項か。あの問題か。」とピンと来られると思います。いわゆる危険負担の問題ですね。この「危険負担」の問題というのは、双方の責めに帰すべき事由によらないで、債務の履行、つまりここで言う「労務の提供」ができなくなった場合に、どちらが責任を負うのかという問題なんですけれども、やはりここの問題は、結局民法536条の問題というふうに整理されるわけです。
536条1項にはどんなことが書いてあるかといいますと、「当該双方の責めに帰すことができない事由によって、債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」。読んだだけでは分かりにくいかもしませんけれども、一言で言ってしまえば、ノーワーク・ノーペイ、ということです。双方の責めに帰するべきことができない事由によって債務を履行することができなくなった、つまり、労務の提供という債務を履行できなくなったったときは、その債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。つまり、ノーワーク・ノーペイの原則を規定している、というわけですね。

それが原則なんですけれども、では違う場合はどうなのかと言うと、2項の方にこういう規定があって、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなかったときは、債務者は反対給付を受ける権利を失わない」。これを雇用関係に合わせて読み替えますと、使用者、つまり労務の提供を受けるという権利者である使用者の責めに帰すべき事由によって労務の提供を受けることができなくなったときは、債務者、つまり労働者は、反対給付を受ける権利を失わない。こう読めるわけです。使用者の責任で従業員の労務の提供ができなくなった場合は、給与の全額の支払い義務を負いますよと、2項にはこう書いてあるわけです。

ところがさらに、労働基準法には、お休み、つまり休業の時についてはこの規定があるわけですね。皆さんもよくご存知だと思います。労働基準法第26条には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、100分の60以上の手当てを支払わなければいけない」、つまり6割以上支払われなければならない、と書いてあります。では、どうやら払わなきゃいけないようだけれども、536条2項で全額なのか、労働基準法26条で6割以上でいいのか、それぞれどんな場合なのか、疑問になるわけです。この問題は非常に分かりにくい問題なんですけれども、参考のために色々と説明してみたいと思います。

この点に関してはノースウエスト航空事件という、有名な判例があります。これは、ノースウエスト航空で大半の従業員が加入している組合がストを起こした。そのために、少数派組合に属している人は、自分は働きたいんだけれども、大半の従業員がストで働いていないために、働けなくなったんです。働けなくなった少数組合に属している従業員が、会社に対して、自分のせいで働けないのではないから、給与を払ってくれということで、賃金の支払いを求めた事例です。
その場合に、裁判所はどういう風に判断しているかといいますと、民法536条2項の、債権者の責めに帰すべき事由よりも、労働基準法26条の使用者の責めに帰すべき事由というものの方、こっちの方が広い、ということを述べています。つまり、全額支払わなければいけない場面は、労働基準法26条に比べてちょっと狭い。6割で済む場合の方が広いというふうに考えればいいですよというのが、ここから読み取れる判断ですね。
ちょっと難しいかもしれませんけれども、ちょっとずつ具体的に説明してきていますので、もう少しおつき合いしていただければと思います。ですから、経済事情や原料の不足その他の、外部の事情による休業の場合、民法536条2項には該当しないが、労働基準法26条には該当する。つまり6割でいいということですよね。これに対して、台風による交通機関の麻痺、地震による工場の閉鎖など、自然現象による、本当にどっちのせいでもないというような場合は、民法536条2項にも労働基準法26条にも該当しないということで、結局民法536条1項の、ノーワーク・ノーペイの原則のところに行ってしまうという話です。

これを整理しますと、若干乱暴な整理の仕方で恐縮なんですけれども、給与の支給なしという、ノーワーク・ノーペイの原則でいけるのは、私傷病や台風による交通機関の麻痺、地震による工場の閉鎖の場合。こういうことなんですね。6割支給をしなくてはいけないというのは、経済事情その他の、外部の事情というところですね。これは少なくとも労働者の責任ではないですから。かと言って、全面的に使用者の責任かと言えば、そうでもない。微妙なところがありますから、6割だけでいいだろう。では、インフルエンザが疑われる場合はこの6割なのか、全額なのかと、この質問にどうしても来てしまうわけですよね。
ケース1に戻りますけれども、ケース1は、熱はあるものの、Xの労務提供自体は可能なんです。ただ、新型インフルエンザかもしれないので、会社の判断で自宅待機をさせたい。つまりXが新型インフルエンザに罹患していることが確定したわけではないので、自然現象によりやむなく労務提供できない、というわけではないので、労働基準法26条で6割か、民法536条2項で全額かの問題になるわけです。先ほど、民法536条2項で全額支払わなくてはいけない場合についての裁判例を見てみましたが、536条2項に該当するかどうか、は判断が難しいんですよね。
私も色々考えましたけれども、結果的に、ケース1が裁判で争いになったときに、絶対に全額払わなければいけないというような判断は出ませんよ、絶対大丈夫ですよとは、ちょっと言えないですね。全額の支払義務を負うという判断がなされる可能性は否定できないと思います。それを前提に対策を考えていかなければいけないと思います。

ただ、常に全額を払わなくてはいけないのかと言えば、そうではない。むしろ、積極的に策を講じるなどすれば、6割でも認められる可能性はあると思います。では、どういうふうにすれば、6割支給を正当化できるかということで、次へと思考を進めていくわけです。その点、民法536条2項というのは任意規定であると言われています。
つまり、当事者間の契約によって、民法536条2項の適用を排除できるわけです。ですから、例えば、就業規則の中で、こういう疑わしい場合に自宅待機させる場合は、6割しか支給しません、という約束を決めてしまえば、正当性を確保できるのではないかな、と思います。ですから、就業規則により、このような場合の給与支給の取り扱いを明確にすべきです。どうしても6割にしたいということであれば、就業規則に明確にすることによって、その正当性は確保できる。ただし、だからといって、「6割でいきましょう」と言っているわけではないですよ。6割しか支給したくないというのであれば、こういう方法がありますよと説明させていただいているだけです。
6割でいくべきなのか、全額でいくべきなのか、このような選択を迫られた場合の基本的な考え方は、コンプライアンスのところで少しお話しさせていただきたいと思いますが、このケース1のような場合の全額か、6割か、の選択についてお話しますと、私自身も、6割支給でいこうか、全額支給でいこうかと迷うのですが、ふと従業員の立場に立って考えてみますと、6割支給が決められていると、それで「うちの子どもがインフルエンザに罹りました」と会社に言おうものなら、「ああそうか、それなら明日から会社に来るな、賃金は4割カットだ。」と言われてしまうことになるわけですね。そんな状態に押しやられた従業員が家族がインフルエンザに罹患したことを素直に会社に言いますか? ということです。私が、その従業員だったら、絶対黙っておきますね。弁護士としては、黙っていたら絶対にいけないと申し上げるしかないんですが、従業員だったら黙っておきますよね。そういうことを考えて、本当に他の従業員の安全を確保して、企業としてきちんとした対策を実践していくということであれば、「漏れなく情報提供を受ける」ということが一番大事なのではないか、と思います。そのように考えてみますと、6割支給でいくのか、全額支給でいくのか、選択の答はおのずと決まってくるのかな、と思います。そのようなお話は後半のコンプライアンスのところでさせていただきたいと思います。以上が1のケースです。
設例2

今度は、2のケースですけれども、従業員Xは高熱が出たので、保健所で診断を受けた結果、新型インフルエンザに感染していることが判明し、自宅療養を求められた場合。保健所で診断を受けて、確定診断がなされたんですね。この場合は、全額支給をしなくてはいけないのかということが問題になるわけですが、これは今まで話ししたことを基に考えていただければ、結論はおわかりになると思います。
この自宅待機が保健所、あるいは医療機関で診断してもらって自宅待機をするというのは、先ほどの森山先生のところでも話はあったかもしれませんが、法律的には感染症法で規定されていまして、去年の5月の段階で、感染症というところに新型インフルエンザが入るというかたちで、新型インフルエンザは感染症だということが規定されているんです。そのような感染症法上の動きは、先の鳥インフルエンザか何かを前提にした話だと思いますが、今年の2月の時点、つまり今回の新型インフルエンザが出て来た当初は、感染症法の19条に基づいて、入院措置もありうるという、非常に厳しい対応をしていたんですけれども、その後、弱毒性が判明したので、今度は、19条ではなくて44条の3という規定を使うということになって、そこで都道府県知事から外出や就業に関する協力、つまり、「外出を控えて下さい」、「出社はしないで下さい」という協力要請ですよね、これらが出されるようになりました。国の対応が、入院措置と比べると、かなりソフトになってきているということなんです。

44条の3項を見てみますと、「都道府県知事は、新型インフルエンザに罹っていると疑われる正当な理由のある者に対し、体温その他の健康状態について、報告を求めることができる。」。さらに、「当該者の居宅、またはこれに相当する場所から外出しないことの協力を求めることができる」というような協力要請ですね。非常にソフトになって、今は、これに基づいて運用されているわけです。ですから、ケース2は、外出しないことの協力を求められた、ということになるわけですね。そのような労働者を休業させる場合に、給与を払わなくてはいけないか、については、法律の規定で外出しないことを求められたわけですから、会社の責任ではないわけです。

結局、当該従業員側の事由によるということになりますから、民法536条2項にも労働基準法26条にも該当しない。民法536条1項の原則に戻って、本人が普通に病気になった時と同じで、ノーワーク・ノーペイの原則により、給与を払わなくていいということになります。順序立ててとはいえ、長いことお話ししましたので、分かりにくいかもしれませんが、この結論については、シンプルに考えていただければ、医療機関でそういう判断がなされたのだから、それは普通の病気の時と一緒だということで、そもそもの原則である536条1項の「双方の責めに帰すことができない事由によって」というところに該当するわけですから、ノーワーク・ノーペイの原則に立ち戻り、不要ということになるわけです。
以上のお話を総合しますと、やっぱり会社の判断で休ませるときは、微妙ですから、本当に6割支給を選択するのであれば、就業規則をきちんと決めておかなくてはいけませんよということをお話ししました。罹患が疑われる場合でも、一定の合理性があれば自宅待機は命ずることができるということですけれども、それもきちんと就業規則に書いておいた方が、従業員とのトラブルをなくすことができるのかなと思います。
そこで、規定するというのだったら、こういう就業規則の規定になるのかなというような、見本ではないてすけれど、具体例を持ってきました。これを簡単に説明して行きます。

まず、1項で就業を禁止する場合を規定しています。このような「病毒伝播の恐れのある伝染病の疾病にった者」、新型インフルエンザはここに入ってくるわけですよね。なぜかといいますと、去年の5月の段階で、感染症法上、新型インフルエンザは感染症と規定されるに至っていますから、就業規則としては、この1項に入ってくるわけですね。就業禁止の対象になるということですね。
次に、2項は、このような法律に基づいて、国の機関から外出禁止とか就業禁止という措置がなされた場合、これも明らかですから、やはり就業を禁止するということですね。第1項、第2項にかかわらず、感染症などの疾病の疑われる時、会社が必要があると判断した場合は、禁止できる、というように、会社がイニシアチブを持っているという、ここがミソです。会社がそのように判断した場合は、就業を禁止し、あるいは、自宅待機を命ずることができるというふうに、疑わしい時に自宅待機を命ずることができることを明文化しているわけです。ここの「できる」というこの書き方も、ミソと言えばミソですね。ここも、「自宅待機を命ずる」と規定してしまうと、今度は、逆に他の従業員から、「あいつ疑わしいのに、なぜ会社は自宅待機命令を出さないのか。自宅待機命令をしないことが安全配慮義務違反ではないのか。ここには「命ずる」と書いてあるじゃないか。」と責められて、ある意味不測の損害賠償などを払わなくてはいけないことになります。ですからここは「命ずる」で切らないで、「命ずることができる」とまで規定する。この「できる」という三文字が非常に重要な意味を持っているということですね。
4項、5項は、給料の支払いについて書いてあります。1項、2項は無給ですよ、第3項の休業の間、「できる」という規定に基づき会社の判断で命令を出す場合は6割。
ご注意いただきたいのは、「6割支給」と書くのであれば、このような書きぶりでどうでしょうかという話です。本当に6割でいいのか、全額にするのかということは、会社がよく考えて下さいね、というお話です。これについて、厚生労働省の見解がずっと出なかったんですけれども、政権交代した後の、この9月18日になってやっと出ました。厚生労働省が、ガイドラインという形ではなく、Q&A方式で見解を出したのです。1から4つまで4つの質問があって、それに対する答えということで、厚生労働省の考えが明らかにされています。

質問の1つ目、「労働者が新型インフルエンザに感染したため、休業させる場合、会社は労働基準法第26条に定める休業手当てを支払う必要がありますか」。これは、今こうしてお話しを聞いていただいてきましたので、この質問の内容がよくご理解いただけますよね。それに対する答えもざっと読みますけれども、「新型インフルエンザに感染して医師等の指導により休業する場合、一般的には使用者の責めに帰すべき事由による休業に該当しないと考えられますので、休業手当てを支払う必要はありません。医師や保健所による指導やの協力要請の範囲を超えて休業させる場合には、使用者の責めに帰すべき事由による休業に当てはまり、休業手当てを支払う必要があります」。
これを、今日のお話をお聞きいただく前に、いきなりお読みになっていたら、多分皆さんよくお分かりにならなかったと思います。今日の、今までお聞きいただいたお話を前提にしましたら、厚労省が書いていることが理解しやすくなったということになると思うのですが・・・。今日、この厚生労働省の回答部分を読んで、「ああ、これはこういう意味なんだ」とお分かりになっていたら、僕が今までお話しした甲斐があったということになるんですけれども、こういうことなんです。この見解が出て、私どもは、実はホッとしたんです。私が今までお話ししてきたことと全く同じことを答えているんですね。ものの本によりますと、ゼロ回答もあるんじゃないか、無給でもいいのではないかといった見解を示したものもあったんですね。そういう本もありながら、私たちは一生懸命考えて、今までお話しした結論に達してお話を用意したのですが、その結論が厚生労働省と同じで、嘘をつく、間違った説明をしてしまう、という結果にならなくて良かった、とホッとした次第です。
次の、Q2は、「発熱などの症状があるために休業させる場合は、休業手当ての必要がありますか」というものです。ここには「発熱」としか書かれていませんが、自主的に休む場合は普通の病欠と同じでいいんだけれども、例えば37度5分の一点の症状のみをもって、労務提供はできるのに熱があるという形式だけをもって一律に休ませる措置を取る場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には使用者の責めに帰すべき事由に当てはまって、休業手当てを支払う必要があります、というふう書いてあります。
ところが、Q1には、問題文に、「労働基準法26条に定める休業手当てを」というのがあるんですけれど、答えの部分には労働基準法26条という条項は示されていないんですね。それで、これがQ2になると、今度は、労働基準法26条に基づくという記載が質問からも消えて、答えにもないのです。休業手当てを払う必要があるというけれども、それが6割なのか、全額なのか、がよく分からないのです。
読む人によっては、Q1の質問で労働者基準法26条という条項が書いてあるから、以下Q2もQ3もQ4も、これは労働基準法26条の話ですねと、だから、厚労省は6割支給というふうに認めたんだ、と読む人もいらっしゃいます。が、私はそこまで言い切る自信はありません。私は、ここは厚生労働省が明確にしていないのではないかと勝手に思っています。ですから、後で確定的な判断として、厚生労働省が、「やっぱり全額支給にしましょう」等と言ってくることも、あるかもしれないと私は思っています。ですので、皆さんにお薦めする対応としましては、6割、全額どっちもありです。が、6割支給とするのでしたら就業規則できちんと決めていた方が安心ですね、ということです。
Q3は、近くで仕事をしていた場合、休業する。これも質問の内容はもちろん違うものとなっていますが、答えはQ2とかわっていません。そして、最後に、休業手当てを支払う必要がありますということで、結局、使用者の責めに帰すべき事由に当てはまるかどうかをずっと書いているのですが、Q4でも、「家族が感染したために労働者を休業させる場合はどうしたらいいですか」という質問に対する答えは、同文と思えますが、結局、使用者の責めに帰すべき事由に当てはまるので休業手当てを支払う、としか書いていません。6割か、全額かは書いていないのです。ということですから、やはりどちらの可能性もあるということで進めていただきたいと思います。そうしますと、この厚生労働省のQ&Aは、あまり意味がないのかというと、そうではありません。

実は、大事なことが書かれていまして、付足してこういうことが書かれています。「なお、Q1からQ4で、休業手当てを支払う必要がないとされる場合においても、自宅勤務などの方法により、労働者を業務に従事させることが可能な場合においては、これを十分検討して、させられるのであればさせて、給料を支払わないでいいという状態を回避して、給料をちゃんと支払ってやれるよう最善の努力を尽くしていない場合には、使用者の責めに帰すべき事由による休業に該当するとされる場合があります」と書かれています。これはちょっと注意をしておかなくてはいけないと思います。
ただ、給料を支払わないでいいという場合の多くは、インフルエンザと確定診断がなされているとか、それによって高熱を出したりしているわけですよね。実際に働けなかったら、自宅勤務なんかはあり得ないわけですから、何が何でも自宅勤務をさせなくてはいけない、というわけではありません。体調的に、業務をさせられる余裕があればさせればいいし、逆を言えば、疑わしいだけの場合であれば、労務提供はできるわけだから、やはり当然お金を払わなくてはいけないということです。6割か、10割か、は明確には書かれていませんが、読みようによっては6割で足りるというふうに書いてあるんだけれども、疑わしい場合に自宅待機をさせる場合には、自宅でできる仕事をさせて、できるだけ全額払ってあげなさい、何か払える根拠、理由を見つけ出して、とにかく従業員には10割払ってあげなさいというのが、ここに書かれた厚生労働省の真意なのかなと思います。
言い方を変えれば、そういう努力をしていなかったら、後で4割の補填を請求される結果になっても知りませんよ、というようなところが込められているのかもしれません。先程から申し上げている通り、6割支給を決めることは可能です。それを正当付けることは可能ですけれども、6割で本当に終わるのかどうか、やってみないと分からないということはあるわけです。ですから、6割支給で留まる場合も、規定上はそうなっているけれど、「働けるのであれば、家で仕事をしてくれないか、その代わり10割払うから」という弾力的な運用もあり、だと思います。
ここで、労働安全衛生法の就業禁止について書いてきましたが、豆知識的なお話をさせていただきますが、ものの本によると、入院や出勤停止という根拠の規定として、労働安全衛生法や労働安全規則が書かれている本もあるんですけれども、実は、それは昔は根拠規定ではあったのですが、今はそうではなくなっているのです。

労働安全衛生法関係では、「病毒伝播の恐れのある伝染病に罹ったものは、こういうふうに就業を禁止しなければならない」というふうにあったんですけれども、この病毒伝播の恐れのある伝染病というのは47年通達で色々列挙されていたんです。でもこの47年通達に挙げられていた病気が、一気に感染症法に持っていかれて、結核だけが残ったのですけれども、結核も2007年にやはり感染症法にいきましたので、この労働安全衛生法のルートでの就業禁止というのは、現行法ではなくなっていて、ありません。豆知識として持っておいていただければと思います。もし、堂々と「労働安全衛生法上も就業を禁止しなければいけないという規定がある」というようなことを書いている本があれば、最近の改訂ができていない本、きちんと調べられていない本、という評価をしていただければ、という形で本を買うときの参考にでもしていただければと思います。
今度は2つ目の設例です。派遣社員が新型インフルエンザに感染したため、自宅待機としたい。自宅待機期間中の派遣料は支払わなければならないのか、こういう問題です。派遣社員を受け入れておられる会社も多いと思いますので、ちょっと派遣社員について考えてみましたけれども、基本的には、自社の直雇用の従業員の方と同じに考えていただければいいと思います。

あらためて整理してお話ししますと、感染症法第44条の3に基づいて、外出しないことの協力を求められたような、そういう形で、医療機関で確定診断がなされた派遣労働者を自宅で待機させる場合は、派遣元に対して派遣料の支払いは必要ない、ノーワーク・ノーペイということでいいと思います。それに対して、感染症法第44条の3に基づいて、外出しないことの協力を求められたわけではないけれども、会社の判断で自宅待機をさせる場合は、派遣料の全額支払いが必要となる可能性もある。ですから、さっきは直雇用でしたから就業規則で規定すべきということでしたが、今度は労働者派遣契約ですから、派遣元との派遣契約の条項の中で、こういう場合は派遣料は6割しか払いませんよ、こういう場合でも全額お支払いしますよ、ということをきっちり書いておきましょう、ということです。
3つ目の設例になりますけれども、新型インフルエンザの感染等により、出社できる従業員が激減したために、出勤した従業員について大幅に時間外労働や休日労働を増加させることはできるか。先程の森山先生のお話のときに、「大分、出勤停止の者が増えてきて・・・」というご質問をされている方がいらっしゃいましたが、欠けた労働力を残った者でカバーしなければいけない、これは当然ですが、多少の頑張りだったらいいのですが、あまりにも欠けたボリュームが大きくなると、時間外にも働いてもらわなくてはいけないし、休日にも出てきてもらわないといけないという状態になる。そういう形で残業を命じる、休日出勤を命じることができるのだろうか、という問題です。

この問題については労働基準法第33条1項に規定があります。「災害その他、避けることができない事由によって、臨時の必要性がある場合においては、使用者が行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から第36条まで、もしくは第40条の労働時間を延長し、または第35条の休日労働をさせることもできる。ただし、事態急迫のため事前の許可を得られない場合は事後でもかまわない。」ということですね。

ですから、災害その他、避けることができない事由によって、臨時の必要性がある場合において、許可を得れば、これにあたる場合は残業を命じることができるということになりますね。そこで、この労働基準法第33条の「災害による臨時の必要性がある場合」に該当するか否かは、どういう判断基準になるのかということが気になってくるわけです。この点については、昭和22年、続いて昭和26年に出された通達で、「災害緊急不可抗力、その他客観的に避けることのできない場合の規定であるから、厳格に運用すべき」というように規定されています。「厳格に運用すべき」というところからしますと、事業所で数人休んでいる、という程度では、「厳格に運用する」ということであれば、「災害による臨時の必要性がある場合」にはあたらないと判断される可能性があるのかなと思います。ですから、程度問題で難しいんですけれど、厳格運用でこの第33条が使える場合が少ないのであれば、別の方法を考えないと仕方がない、というように、次に思考が進んで行くわけです。

それで考えられるのが、第33条が使えないのであれば、三六協定を使いましょうという話になるんですね。三六協定は言うまでもなく、労働者と合意すれば一定の範囲で時間外労働を命ずることができる、ということですから、三六協定で時間外労働を命ずることができる幅を広げたらいいではないか、という考え方です。通常の三六協定では、一ヶ月45時間の限度でしか時間外労働を命ずることができないんですけれども、新型インフルエンザで大量に休んだような場合は、月45時間では全然足りないというような場合も出てくるわけですね。ですからその枠を広げたいという話になるわけです。枠を広げるということで、三六協定で特別条項として、その枠を広げるような見直しが必要になってきます。

ここは、三六協定ですから、従業員の皆さんとしっかり向き合って、非常事態に備えてこのような協定を結んでくれないか、と話し合わなければいけないんですけれども、それをきちんと説明し、理解してもらった上で、協定するとしたらこういう条項かな、というものを用意してきましたので、参考にしていただきたいと思います。
まず、こういう1号とか4号とかの事情による時には、特別に定める延長時間を適用する、特別な場合というのは、特別に注文が集中し、通常の延長時間では納期に間に合わない。これは、既存の三六協定でも既に協定されているかもしれません。特需だ、といってどっと注文が来たときには、ここで儲けなくていつ儲けるんだというときですから、こういうときは協力して下さいねと、これはもう既に協定されているかもしれません。これと同じような考え方で、インフルエンザに関する条項はどうだろうかと、4号で規定してみました。
地震などの天災事変が起きて従業員が出社できないときのための条項は既に入れている会社もおありかなと思いますが、「急激な感染症の流行により」出社できない従業員が多く発生し、そのために通常の延長時間では業務が処理できない。こういう場合は協力して下さいね、ということで、このような条項を入れられたらどうかなと思います。
ただし、注意しておかなくてはいけないのは、特別に定める延長時間だけれども、特別延長時間は月単位で適用し、その回数は例えば年5回以内とするというように、キャップをはめる、ということです。このようにキャップをはめることで、従業員側の理解を得るというのも一つの工夫ということになります。
今度は4つ目ですね。A会社は従業員に対して、本人及び同居の家族が新型インフルエンザに罹患し、または罹患した恐れがある場合には、直ちに報告するよう求めることができるか、という問題です。できますかね? これはさせたいですよね。これは、結論としてはさせたい、させなければいけないので、どう理屈付けるかだけの問題です。

この理屈付けは、企業秩序の維持、今日のお話で、今までに何度も出て来ましたけれども、企業秩序維持、従業員の安全配慮義務、会社はそのような義務を負っているんだから、それを履行するためには、調査が当然必要だ、ということですね。法律を作る国会議員には国勢調査権というものが認められているというのは、法律を作るためには立法事実等を調査をしないと法律を作れないからですね。何かをするため、義務を履行するために調査が必要であれば、合理的な調査を行う限り、合理性があるということになるわけですね。ですから、本人についての体調の状態を前提にして、会社は一定の判断なり措置をしようとするわけですから、従業員の体調の状態を把握する、調査するということは義務の履行には必要不可欠なことですから、これはできる、ということになると思います。
本人ではない、家族の健康状態についてはどうなのか、ということですけれども、家族の健康状態についても、やはり新型インフルエンザの問題は、感染力があることを前提にしているわけですから、本人だけで終わってはいけないということです。一人暮らしで家族がいなければ意味がないですけれども、同居の家族がいる場合、同居人からの感染の可能性がある人については、当然合理的な理由があるということになってきます。
反対に、家族のプライバシーはどうなるのかという、逆向きの要請がありますけれども、その点につきましては、今流行のインフルエンザに罹っているかどうか、ということは、プライバシーと言ってもそれが侵害される程度はそんなに大したことではないように思われます。
ですから、家族の健康状態についても、業務命令によって罹患の事実の報告を求めることができると思います。罹患の事実だけでもいいわけですから、極端に突き詰めていけば、長女、長男、次男、三男とかいうことも聞かなくていいわけですよね。「奥さんなの?」とか、「どこで罹ったの?」とかは聞かなくていいのです。濃厚接触者が罹患したという事実があれば、それだけで、罹患モード、可能性モードに入っていくわけですから、家族の罹患の事実、こういう抽象的な事実だけでもいいわけです。だから細かいことを聞かずに、罹ったか罹ってないか、誰が罹ったかは知らないけれども、ということだけであれば、プライバシーの侵害の程度は本当に小さいものですから、このような聞き方をするかぎり、全然恐れることはないと思います。
とは言え、やはり聞かれる側の従業員としては、「え、本当にそうなの?」と不安を覚えるでしょうし、「そんなことができるって、何か書いてあるの?」ということで揉めたりすることも考えられますから、いらぬトラブルを避けるためには、やはり、こういうことについても就業規則に規定を用意しておくべきだと思います。そうすれば、「就業規則に書いているじゃないか。ちゃんと報告しろよ。」と言えるわけです。
その場合の規定の仕方としては、具体的にこういうことが考えられるのではないか、ということで、「同居の家族もしくは同居人等が法定伝染病に罹り、またその疑いがある場合には直ちにその旨を会社に届けて、適切な措置を受けなければならない」という規定の仕方を考えてみました。ここは、法定伝染病という書き方をしましたけれど、ここはもう少し広げることができるとは思います。一般的に感染力が高い病気だとかいうことで書くこともできると思います。
このような個人のプライバシー情報に関して、もう一つ問題になってくる場面があります。これもよくあるのではないかと思いますけれども、休ませた従業員からその後連絡がないという場面ですね。事例として用意しましたのは、従業員Xは新型インフルエンザに罹患して、自宅待機していたが、10日を過ぎても会社に対して連絡がない。休み癖がついてしまったんですかね。会社Aは、従業員Xの担当医に対して病状や職場復帰の目処を直接聞くことはできるか。本人から聞けないから、お医者さんに聞くしかないということなんですね。聞きたいですよね、その先の懲戒の判断材料としても聞きたいところがありますね。

このようなことについては、厚生労働省がこういうことを言っています。平成16年の通達で、このように「慎重な配慮」という言葉を使っているんですけれども、その中で必要なところを抜き書きしてきました。「症状や経過を医療機関から確認する場合には、医療機関が本人から承諾を得るだけでなく、使用者からも本人から医療情報取得について承諾を得る」。つまり情報をリリースするお医者さんが、本人に「いいですか?」と聞くだけではなくて、会社の方も本人に、「お医者さんに聞いてもいいですね」と了解を貰ってからお医者さんに聞きに行きなさいということが書いてあります。お医者さんに聞くことは構わない、ただ本人に了解を貰うこと、とされているのです。
でも、おいおい、ちょっと待ってくれ、という話になるわけですよ。考えてみてください、10日も連絡がない人間に、「聞きに行って、いいですね」とどうやって聞きにいくのか、という話になるわけです。ですから、どうするか、と言いますと、事前に、就業規則に、こうこう、こういう場合は、「主治医等の医療機関に病状等を尋ねることを承諾する」とか、「できる」とかという条項を入れておくとか、自宅待機命令を出すときに、自宅待機命令書に、「連絡なき場合等、会社の方から医療機関に対して照会することを承諾する」、「照会しても異議を述べない」というようなことを書いたものを渡す。あるいは、そのように書いたものにサインをさせる、というようなことで事前承諾を取っておけばできるわけです。ですから、自宅待機命令をするときも、こういうことに気を付けておいて下さい。
従業員を信じたいのですが、やはり連絡がないと、何をしているか分からないというところがありますから、そういうことに対応できるように、常日ごろから注意しておかなくてはいけない、ということです。ここでも書類のやり取り、言った言わない、承諾した承諾してないという問題が出てきますから、やはり何らかの形で、ペーパー、紙でのやり取りが必要だと思います。最近は、ペーパー、紙ではなくてメールでやり取りをすることがあると思いますけれど、やはり、相手方は、裁判所に行くと、「そんなメール受け取ってない」と争ってくることも考えられますので、メールの送信録もきちんと残しておくことは大事だと思います。敢えて付け加えさせていただきました。
以上が自社内の話でしたが、前半のお話の最後に、対外的なお話をさせていただきたいと思います。
まず1つ目の説例ですけれども、工場の従業員の多数が新型インフルエンザに感染し、休業せざるを得なくなったことから、製品の納入が遅れてしまい、取引先に損害を与えてしまった。インフルエンザのせいなんだけれども、これを「インフルエンザのせいだから」と言って許されるのだろうか、という問題です。

こちらにすれば、許されてほしいですけど、相手方からすると、どうでしょうね。結局、皆さんは、両方の立場になる可能性がありますね。いずれにしましても、この問題は結局、民法の問題なんですね。冒頭でも申しましたが、新型インフルエンザだからといって、新しい法律問題を考えなくてはいけなか、といえば、そうでもないわけです。お客さんとの取引きにおいて、約束した製品を渡せないということは、契約に従った履行ができないという話ですから、民法の債務不履行の問題なんです。
債務不履行といえば、民法415条に書いてあるわけですね。つまり、「債務の本旨に従って履行しない場合は債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求することができる。また債務者の責めに帰すべき事由によって履行することができなくなったときも同様とする」。つまり、インフルエンザで従業員がバタバタと倒れていって、工場がうまくいかなくなって、納められませんでしたというのがメーカーの責任になってしまうんでしょうか、という問題なんですね。責めに帰すべき事由があるかどうかという問題です。
この問題を考えるにあたり、色々と判例を調べてみましたが、やはり阪神淡路大震災の時の判例が参考になるのかなと思って、これをちょっとひっぱってきました。阪神淡路大震災の際の事例としては、倉庫内の化学薬品が地震で荷崩れして漏出して、他の貨物から流出した水分と結合して発火し、火災が起きてしまったという事例で、その倉庫会社に過失があったかどうか、つまり倉庫会社の責めに帰すべき事由があったかどうかが争われた事例です。

この事例について、東京地方裁判所は、平成11年に判断しました。阪神淡路大震災なのに、何で東京地方裁判所なのか、私も詳しい事情はよく分からないんですけれども、東京地裁は、こういうことを言っています。「M倉庫としては、通常想定される事態に対応できる措置を講じていたと評価することができる。しかし、同被告(M倉庫)が特に本件火災発生までも予見できたとすれば、このような措置では不十分であり、注意義務違反と評価される余地がある」。ですから、ある一定の地震を想定して、倒壊を防止するとか、ちゃんと組んで少々の地震だったら荷崩れしないというような対応はしていたんだけれども、それを上回るようなものができたということで、それで崩れても、それ自体を壊してしまうということであればまだ分かるんだけれども、そこから更に火災が発生するという、特別の損害が広がっているわけですよね。
そこまで責任を負わなくてはいけないのか、というところで、火災が起こる可能性があって、それが広がるというところまで予見することができたんだったら、そのための措置もしておかなくてはいけなかったのではないか、という理屈を述べているわけです。ですから、地震の直接の被害といえば、崩れてそれが壊れたことくらいでしょうね。そこを超えて、隣の液体と結合してしまう、火災まで起きてしまう、というのは、そういう特別の事情まで責任を負うかどうか、というのはやはり、予見することができたかどうかというのが、判断の一つのキーだということです。
それで、化学反応を起こすような素材を隣同士に置いていたら、もし荷崩れしたら、地震ではなくても、それが反応して発火すると分かるじゃないか、それだったら倒れても反応しないようにちょっと離して置いておくとか、違う所で保管しておくとか、それぐらいのことはできたんではないかという話に進んでいくわけです。
とにかく、その問題の出発点は、予見することができたかどうか。損害賠償請求の基本は予見可能性と、結果回避可能性という二つ目のキーがありますが、特に、この新型インフルエンザの問題との関係でいえば、予見することができたかどうかという予見可能性の有無がポイントになってくると思います。
先ほどの事例に当てはめて考えますと、要するに従業員がバタバタと倒れて製造能力がダウンしてしまって、納品が間に合わない。結局、そういうことが、予見できたか、ということなのです。そうすると、今年の5月以降これだけ流行してきて、皆さんこうやってお話をお聞きになるくらいですから、そういう事態があり得るのではないかと、皆さんお考えなわけですよね。ですから、現時点での事故が問題にされれば、そういう意味では予見可能であったというふうに裁判所に認定されてしまう可能性はあるのではないかなと思います。ですから、企業としては事業継続、そういう状態になっても、まずはならないようにするという措置が必要でしょうし、なったとしても、どこかから応援を求めてくる体制を整えておくとか、何とかしようとする、ある一定の対策はしておかなくてはいけないのではないかという議論になるように思います。
つまり、責めに帰すべき事由があるということで、賠償責任を負うという可能性はやはり否定できませんから、事前の事故が起こらないような対策をやっておくとともに、万が一起きてしまったら、その時は勘弁して下さいというふうに相手と約束しておけば、責任を免れることができるわけです。取引きの相手との基本契約ですね、継続的な取引き契約書の中で、免責条項にインフルエンザの時は勘弁して下さいという条項を入れておけば、安心だということになるわけです。これが1つ目の事例ですね。
今度は、A社において新型インフルエンザに感染した従業員が接客を行ない、顧客に新型インフルエンザを感染させてしまった、という設例です。接客業の会社の皆さんにとっては深刻な事例だと思います。
先ほどの設例では、債務不履行の問題とお話ししましたけれど、接客業の場合は、通常「いらっしゃいませ」としてお客さんを受け入れて、何らかのサービスを提供するわけですから、そこに契約関係があるわけですけれども、たまたま何らかの事情で契約関係のない方と接する機会があって、そこで感染させてしまうという場合もありますよね。契約関係があれば債務不履行ですけれども、契約関係がなければ、不法行為、民法709条の問題ということになってきます。お客さんの立場からすると、契約関係があるからといって、会社に対して損害賠償請求する時に、別に415条によらなければいけないというわけではなくて、不法行為に基づきその損害を賠償するという709条で請求してくることも可能なんです。どちらでも選べるわけです。
ただ、少し法律的な話で、やこしい話ですけれども、契約責任が追求される場合は、被害者の方は「私はこれだけ損害を受けました」とだけ言えばいいわけです。訴えられた会社の方は、「こちらには責任はありません、責めに帰すべき事由がありません」ということを、会社側で立証しなくてはいけないということで、被害者側に有利なんです。反対に、民法709条の不法行為責任を追及する時には、被害者の方から、「あなたのミスのせいで、こちらは損害が生じた」、法律用語で言うと、「故意または過失」という用語が使われていますが、「あなたの故意で、あなたの過失のせいで、私に損害が生じた」ということを、被害者側で立証しなければいけないわけです。被害者側の立証が大変なんですね。ですから、契約関係にある場合は、709条でもいけないことはないんですけれども、普通は415条でいくというのが、損害賠償請求の裁判の実務ではそういうところがあります。いずれにしても、責めに帰すべき事由があるかないか、故意・過失があるのかないのか、という帰責事由の問題ということになるわけです。
そこで、帰責事由があると認められる場合というのはこういう場合なのかな、というのを書き出してみました。例えば、従業員が新型インフルエンザに感染していることが分かっていたのに接客をさせた。これは駄目ですよね。それだったら感染させてしまうということを予見していたわけですから、これは駄目です。帰責事由が認められるということになります。

次は、会社・従業員ともに、新型インフルエンザの感染を知らなかった。けれども、会社内では新型インフルエンザの流行について、何らの措置もしていなかったということであれば、結局は従業員が感染していることを見逃したわけですね。そこには一定のミスがあるわけですから、この場合もやはり責任ありとされるということになってしまうのではないかと思います。知らなくても、知らないのは自分のせいだという話ですね。措置をしていなかったから。ちゃんと罹ったら申告しなさい、家族が罹ったら申告しなさいと、あるいは従業員に毎朝、体調は大丈夫か朝礼で確認をしているとか、せめてそういうことをしていたんだけれども分からなかった、というのであれば、それは会社としては責任はないということになってくるでしょうけれど、何もしていなかったら、やはりいけない、ということです。それが2つ目の設例のお話です。
最後の設例です。A会社が、イベント開催などを業にしているとお考えいただければ分かりやすいと思いますけれども、A会社は新型インフルエンザが猛威を振るう中、イベントを開催したために、多数の参加者が新型インフルエンザに罹患してしまった。イベントを企画・開催した会社は、参加者が罹患したことについて損害賠償責任を負うか。
これについては、参考になる判例としては、皆さんは地理的に離れていますから、ご記憶されている方も少ないかもしれませんが、兵庫県の明石市で花火大会をやった際に、花火大会が終わってから「ドドーっ」と国道を渡る陸橋、しかも屋根で覆われているような通路ですよね。そこへ大量の人が詰め込まれるような状態になって、亡くなった人も出たという事故、についての裁判所の判断が参考になるかなと思ってここに持ってきました。
そこで述べられているのは、イベント開催の事業者は、単に求められたイベントを開催すればよいというのではなく、やはり、条理上、あるいは社会通念上当然に、参加者の生命・身体の安全を確保すべき注意義務を負うと、ここでも明確に言われていますので、イベント会社は「こういう企画で、こういうイベントして」と主催者から言われて、「ハイハイ」とそれだけを履行していたのでは、やはりいけない、参加者の安全確保もしないといけないというのは、当然認められると思います。

それを前提に、この判例でも、花火大会を主催した市、市から雑踏整理を請け負った警備会社、そこにも責任を認めているんです。ですから、このことからすると、新型インフルエンザ罹患防止措置を十分に取らなかった場合は、やはりイベント会社A社が損害賠償責任を負う可能性があるというふうに思われます。
社内規定で4日以上連続して休む場合は医師の診断書をもらうこと、ということがあるんですけれども、例えば本人が、診断書をもらうのにお金がかかるから、出したくないと言う場合は、それはちゃんと社内規定にあるから強制的に「それは出しなさい」ということは言えるのでしょうか。
診断書の診断書作成料の負担まで就業規則に書かれていますか?
書かれていません。
そのような質問をよく受けるんですけれど、では、診断書の提出は何のために求めるのかという、根本に立ち戻って考えますと、私が今日時間をかけてお話ししましたように、従業員に診断書の提出を求めるというのは、労務の提供そのものではなくて、そこからはみ出ることを求めて、指示をするわけですよね。それ自体は、労務の提供ではないわけです。そこからはみ出ることをお願いするわけです。それは何のためにお願いするかと言うと、他の従業員の安全を確保するため、つまり会社としての債務を履行するためであって、そのために、必要な資料を用意してくれ、という話ですよね。ですから、会社のために、「あそこに行って調べものをしてきてくれ」と言っているのと同じことなんですね。
そうしますと、「そこへ行くのに交通費がかかるんですけれど、会社が交通費を持ってくれるんですか?」、「それは持つよ」という話になっていきますよね。結局、他の従業員の安全を確保するために必要な資料の提出を求めるわけですから、法的な意味で、費用はどちらが負担するのかといったら、やはり本来会社が負担するべきだと。理屈ではそうなると思います。ですから、予め、「その場合でも従業員の負担とする」と、どこかで決めているなら別ですけれども、それを決めていなければ、費用負担はやはり会社だと思います。
分かりました、ありがとうございました。
自社での事例なんですけれども、まず従業員の家族のお子さんがインフルエンザに罹りました。それで子どもの報告があった後、従業員本人が37度台後半くらいの発熱をしました。ただ、病院ではインフルエンザであるかどうかは分からないというような状態で、自宅待機を命じた場合は、給与の保証というのはどうなるのかなというところをお聞かせ下さい。
本来ですと、お医者さんに行って、インフルエンザの確定診断をしてもらって、インフルエンザであるということが確認されれば、喜んで無給というふうにもっていけますけれども、実際、森山先生からもお話があったかは分かりませんが、熱を出している人が、「先生、熱があるんですけれども、インフルエンザかどうか診て下さい」と言って、例えば電話での相談してきているのでしたら、今の医療現場だったら、診療所でウイルスを拡散して欲しくはないので、「診療所に来てくれるな」と言われる可能性があるわけです。そのような現状を前提にして、なお、「診断書をもってこい」というのは、これも酷な話かなと思います。
事実認定の問題ですけれど、37度台の後半は微妙と言えば微妙ですが、さっきの37度5分よりはちょっと上ですけど、やはり、それだけの熱が出てきたら、インフルエンザに関わらず正常な状態での労務提供ができるかと言ったら、できない状態だということで、会社としては、そういうふうに認定したんだ、ということを根拠にして、それは熱を出して休んでいるんだから、普通の病欠扱い、というようにもっていくのが、一番現実的な対応ではないかなと思います。理屈としては色々、他の構成も考えられるでしょうが、今の医療の現場の事実などを前提にしたら、そのようにもっていく対応がよいのではないかなというのが、今の私の考えです。
分かりました、ありがとうございました。
とにかくキーは、労務提供が受けられなかったら、企業はお金を払う必要はないわけですから、まずその状態にあるかどうかなんですよ。給与を払うかどうかについては、インフルエンザであるかどうか、というよりも労務提供できるかどうか、なわけです。インフルエンザで、お医者さんから「出社したらいけない」と言ってもらうということは、労務提供ができないことについて、御墨付きがついたというだけの話ですから、実質的に熱があって働けない人に払わなくていいわけですから、そこを見極めるということだと思います。
重なる質問かもしれないんですけれど、例えば子どもさんが熱を出して休んだ時、もしくは本人が熱を出して休んだ時の、休みの取り扱いについては、例えば準休というような取り扱いにすべきなのか、それとも年休というような形で取らせてもいいのか、その辺の解釈はどのように捉えたらよろしいのでしょうか。
まずは会社で一番有難いのは、本人が有給を取ってくれたら有難いわけですよね。ですから、本人が積極的に、「私ちょっと不安だから、有給で休ませて下さい」と言われるのを待って、「どうぞ」と言うしかないですよね。「有給とってくれ」と会社から強制するわけにはいかないですからね。「準休」とおっしゃっているのがどういうものか良く分からないですけれど、会社から、まず、こういう手順で進んでやっていって下さいということを説明して、その手続きに乗かってもらう、ということしかないと思うんですよね。とにかく有給の部分は、従業員の方から自ら言ってこない限りはできませんから、会社は有給が使われないという想定で進めておいて、それにも関わらず従業員の方から「有給でやります」と言ったら、「ありがとう」と、有給での処理をすればいいということですね。
答えになっているか、少し不安ですけれど。有給にしなくてはいけない、と考える必要はないです。とにかく、会社の方からは、有給にせよとは言えませんから、会社の方としては、「(インフルエンザの場合は)ちゃんと申告してくださいね」、「申告してきたら、業務命令で自宅待機を命ずるかもしれませんよ」、「でもその場合は6割支給ですよ」、あるいは、「全額支給しますよ」ということをアナウンスして、申告をきちんとして下さいね、ということですね。「有給にして下さい」ということもコメントしないし、「有給は認めません」ということもコメントしないし、そこは平常どおりということです。
会社に「熱があるので休みたい、インフルエンザかどうかは分からない」という話をされた時に、会社の方から、「一応病院に行って、診断を仰いでみられたらいかがでしょうか」ということは、言ってもよろしいんでしょうか。
それは、「行かれたらどうですか?」というアドバイス的なことだけですから、別にその程度のことであれば、言っていただいても全然問題ないと思います。ただ、医療機関に行くことを強制することができるかと言ったら、強制することまではできないと思うんですよね。
いや、強制することができないというか、それも就業規則なんかで決めていれば、何か不調があった場合に医療機関での受診を求めることができるとかいう就業規則を書いている場合もあるんですよね。
それは、例えば、休職からの復活の時とかに使えるように、そういうようなことを予め規定しておくんですけれども、私らで議論しているのは、仮に就業規則でそのような記載がなくても、何か従業員に不調・変調がある時に、会社の立場から医療機関への受診を求める、あるいは産業医に受診してもらうように求めるという事自体は、それはできるんのではないか、ということです。それは、労務提供をしっかりやってもらうための、ある意味の安全配慮義務の一環として、そういうことができるんだというような考え方がありますから、おっしゃっていただいたような、「どうですか?」というふうに言うのは全然問題ないですし、それが疑われる状態になった時に、「行きなさい」と言うことはできるというふうに思います。でもトラブルを避けるために、そういう形でお願いしますよということを、インフル運用基準みたいなもので、予め従業員に説明しておいてあげれば、これを発動しますよということで、納得が得られやすいんじゃないかなと思います。
すみません、労基法の第33条にあたるかという部分の質問なんですけれども、災害による臨時の必要性がある場合ということでですね、事業所で数人休んでいる程度ではならない可能性があるということなんですけれど、事業所によっても、数が10人のところもあれば1,000人のところもあると思うんですけれども、パーセントで言うと、全従業員のどれくらいというふうに判断したらいいでしょうか。
それは、正直に申し上げて、何%と提示することはできないと思います。考え方を変えては、どうかなと思うんですけれども、通常、例えば、3つある工場の3つとも同時に人数が減るということは、普通であったら起こりえないと思われることですよね。3つとも同時に欠けてしまったら、会社としては対応不能ですよね。そこまでいけば、異常事態ということになるのかなというふうに思います。ですから、3つある工場のうち1つの工場で、大半の従業員が欠けたということであったら、他の工場からの応援も可能と言えば可能ですから、その程度だったら駄目なのかなと思います。けれども、3つが全く別の工程の工場なので、別の工場から代替要員を派遣できない、とか、3つも同時でも、事務方でも、手の開いている人全員を動員しても全然対応しきれない、話にならないくらい、ということであれば、該当するということになるのでは、と思います。パーセントでは言えませんが、程度ということでしたら、通常思いつく対応では「話にならないくらい」のところだと思います。
事前にお上にお伺いを立ててからでないとできないということになればですね、それこそ業務が止まってしまうということに当然なってくると思うんですよね。
ですから、動かさざるを得ないんだったら、動いてしまうしかないんでしょうね。事前の了解を得られるような時間的な余裕がなければ。でもそこは、後で怒られるのを「すみませんでした」と謝るしかないんでしょうね。そこで止めるわけにはいかないでしょう。何か違法行為を勧めているようですけれども、私はむしろ「すまんな、すまんな」と言って従業員の方も分かってくれて、やってくれるんだったら、後から怒られるかもしれないし、指導が入るかもしれないけれど、それは平時の、強引にサービス残業を強いているようなことに対する指導とは、指導の質は多分違うだろうと思いますが。
法律の関係でのお話としては、以上で終わらせていただきたいと思います。開始の時間も遅れましたので、皆さんお疲れのことと思いますが、次のコンプライアンスの関係も続けてお話しさせていただきたいと思います。少し画面を用意しますのでお待ち下さい。
(後半へつづく)
添付資料(印刷用にご利用ください)
- 20091027_2report.pdf (2.0 MB)
山本 健司(やまもと けんじ)
北浜法律事務所パートナー弁護士
大阪市立大学法学部卒業、1991年4月弁護士登録(43期)。労務管理全般、建築紛争、コンプライアンス、損害賠償法務、金融法務(クレジット・リース・貸金)、企業再生・清算、その他の企業法務に精通し、セミナー、執筆も多数。- 日時・場所
2009年10月27日
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