「企業の強みを『見える化』する~中小企業に眠る財産【競争優位・変化対応力の源泉】~」(2011/01/17開催)
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中小企業診断士の原田と申します。よろしくお願いします。
本日は時間にして2時間ほど、中小企業の「見える化」経営の実践ということでお話しさせていただきます。途中10分間ほど休憩をとりたいと思います。今日はとてもいい会場をご用意いただいていますので、皆さんリラックスしてお聞きください。
今回、これからのお話の前提として、今現在、中小企業の経営を取り巻く環境は大変変化が激しい、なおかつ物が売れない時代になっていっていると。でも、これは大企業でも当然同じことです。
こういった中で、一部、中小企業の中でもいいところは、こういった環境変化に対応していって、次々と新しいヒット製品、ヒット商品、ヒットサービスを生み出していっています。こういった企業は、自分たちの中に眠っているほんとうの強みに気がついて、それを活用していっています。今日は通常の中小企業が経営をするに当たって、なかなか気づかない真の強みとは何か、それを生かすための経営とはどういったことかをご説明したいと思います。
まず、ドラッカーという、もちろん皆さんご存じの有名な経営のコンサルタントは『ポスト資本主義社会』の中で、基本的な経済資源、いわゆる生産手段というのは資本でも土地でも労働でもない、知識――ナレッジというものが、生産社会に価値を生み出す手段であるという話をしています。
ドラッカーがその昔に知識型経済を予言しているように、今現在は生産型経済から知識型経済になったと言われています。知識型経済と言われてもなかなかぴんとこないと思いますけれども、わかりやすく説明するために1950年代を生産型経済、2000年代からを知識型経済と設定してみます。
昔の生産型経済は製品主体であって、物をつくれば売れました。よいものを効率的にどんどん大量生産し、大量に販売するというマス商品、マスマーケティングの時代でした。今現在の2000年代は知識型経済で、お客さんが価値を感じなければ売れません。当然、物余りの時代なので、物はいっぱいあります。その中でお客さんは、自分にとって価値を感じるものを選ぶようになりました。
その中で重要なのは、まず一つが顧客の価値を創出すること、お客さんにとっての価値を生み出すことです。それともう一つは、企業がお客さんに価値を提供するさまざまなビジネスプロセスの中で、何かしら新しい組み合わせを生み出して、また新しい価値を進化させていくことです。
では、1950年代の生産型経済のヒット商品から2000年代の知識型経済のヒット商品はどう変わったか、皆さんのイメージを統一したいと思います。物から価値への転換しです。電気製品の変化で、1950年代と2010年代を見比べてみます。ここを空白にしていますけれども、皆さん考えてみてください。1950年代から2010年代へ電化製品がどう変化したか。
1950年代には、何を隠そうテープレコーダーが初めて日本で発売されました。これはソニーのテープレコーダーG型です。2010年代に出たのは皆さんがご存じiPhone4です。60年間で電化製品は、ソニーのテープレコーダーG型からiPhone4に変化しました。
ソニーのテープレコーダーG型は、基本的に録音した音を再生し楽しむだけで、基本的に単一の製品です。この単一の製品をつくれば、ある程度売れることが保証されました。
今現在のiPhone4は、基本的に携帯電話なりスマートホンと言われるものです。このiPhone4は、中にさまざまなアプリケーションソフトウエアが入っています。このアプリケーションソフトウエアの組み合わせで、使う人たちが自分たちだけの価値を生み出したり、あるいはこのiPhone4というブランドに価値を感じて使っているような状況です。
次は温泉、観光地の変化ですけれども、これも物から価値へ移っています。まず、1950年代の別府温泉です。別府温泉が国際観光温泉文化都市に指定されました。この1950年代の別府温泉は、大変大きな大浴場があって、大旅館があって、宴会場があって、基本的にその三つのものがそろえば、団体の男性客が来て、どんちゃん騒ぎをして楽しんでいってくれるような時代でした。
現在を代表する黒川温泉は、2010年に、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで温泉地としては異例の二つ星で掲載されています。
この二つを比べてみるとわかると思うんですけれども、ハードの設備は当然別府温泉のほうがお金がかかっています。でも、黒川温泉はそうではありません。当然この間に、お客様が団体の男性客から個人の女性客に変化してきましたけれども、さまざまな価値を生み出して、お客さんに提供しました。そういうことでひとり勝ちが実現できているという背景があります。
もう一つ、大変おもしろいんですけれども、アイドルコンテンツも変化しています。1950年代というと、この中の一部の皆さんはまだわかるかもしれませんけれども、かしまし娘が登場してきました。このかしまし娘は、一人一人が歌謡曲、浪曲、民謡、小唄、長唄を一通りこなせる若手三姉妹トリオでした。この三姉妹が一セットになって、どこかの場所に出て歌を歌ったり、ちょっとしたコントをしたりするというアイドルコンテンツです。
2010年代の代表的なものがAKB48です。私もあまり知らないんですけれども、今大変ヒットしています。コンセプトは会いにいけるアイドルです。これも、現在の物から価値へと転換した時代にうまく適合したアイドルコンテンツです。アイドルのファンが望んでいるものを望んでいる形で提供するのがすごくうまい。僕も専門家ではないので中身がどうなのかは知りませんけれども、ひとり勝ちしている中で、確かにファンに価値を届ける手法が大変にすぐれています。もちろん、その中には価値提供までのさまざまなプロセスが組み合わさっているのではないかと思います。
iPhone4とか黒川温泉、AKB48は、それぞればらばらなものですけれども、お客さんにとっての価値を創出して、顧客ニーズに対応していっている、これが背景としてあります。こういった新たな価値を創出して、顧客ニーズに対応していっている背景をご説明します。
今まで説明したヒット商品は、ぽんといきなり出てきたわけではなくて、その裏側には必ず提供するまでのプロセスにさまざまな積み重ねが存在しています。黒川温泉の例で紹介しますと、黒川温泉は、まず、お客さんに対して価値を提供するわけなんですけれども、その中には当然、この中で働く人たちの知識や経験、あるいはその中で蓄えられた仕事の手順やさまざまなデータがある。あるいは、直接お客さんに価値を提供するだけではなくて、この黒川温泉に関するいろんな商品を仕入れる業者、あるいは旅行雑誌関係、マスコミ関係の人たちも合わさってさまざまな価値を創出しています。
こういった価値創出プロセスのよい循環の中で、だんだんとこの中に蓄積をされていっています。通常の物ではなくて、働く人たちの知識やノウハウ、組織では仕事の手順とかデータ、あるいはパートナーとの関係、あるいはお客さんとの関係ではブランドが価値創出プロセスの中で日々蓄積されています。価値創出には、このような知識、ノウハウ、パートナーシップ、ブランド、手順、データベースのようなさまざまな要素が関与しています。
先ほど生産型経済から知識型経済に変わったと言いました。生産型経済は製品が主体となるもの、知識型経済はナレッジ――知識が主体となるもので、その中で価値を見出せるかどうかです。ここでもう一回復習ですけれども、知識型経済とは、知的財産、ビジネス・モデル、ブランド、ナレッジなどの形のない技術・情報を基盤とする経済です。
生産型経済と知識型経済の違いとここに書いていますけれども、これはまた後でどういうものか説明します。生産型経済は物をつくって世の中に送り出せるかどうかが第一です。物的財の産出が経済価値や富の主たる源泉となる経済社会を背景とするということで、物的資本への投資が経済成長を決定づけます。
一方、知識型経済では、技術、デザイン、ブランドといった無形価値――今回のセミナーでは「見えない資産」という言い方をしますが、この見えない資産のナレッジや無形財の創出・活用能力が産業競争力に大きな影響をもたらします。知識型経済では見えない資産がどうやって価値を見出しているのかに着目をして、この見えない資産を活用、強化することで、さらなる産業競争力に結びつきます。こういった背景がまだあることを理解しておいてください。
では、先ほど価値創出プロセスをご説明しましたけれども、価値を生み出す要素とは何かをご説明します。わかりやすく単純化したモデルで説明をしますけれども、生産型経済の枠組みといった場合、生産の三要素は、人(man)、設備(machine)、材料(material)の三つです。この三つがそろって製品(product)が生み出されます。
生産型経済では、とりあえず何かしら設備をそろえて、人をそろえて――人というのはマンパワーですが、材料を入れて、製品を生み出す、こういった物的財の産出が経済活動や富の主たる源泉でした。この生産型経済を1950年代ソニーのヒット商品のテープレコーダーで見た場合には、当然つくればつくるほど売れたわけですから、いかに効率的につくるかが重要でした。その中での枠組みは、テープレコーダーという物的財を産出することです。テープレコーダーを効率的につくるためには、土地とか機械、あるいはその製品材料への投資が経済成長を決定づけていっています。
こういった生産型経済の枠組では、物的財の運用・投資はすべて金額に換算されます。製品といった場合には売り上げであらわされますし、設備といった場合には設備費です。例えば1,000万円の投資で、10年間の減価償却期間があるとすれば、1年間100万円ぐらい費用がかかっている。それから材料費、あるいは人件費ということで、この中の産出要素は全部金額換算されます。これが財務会計の考え方です。
財務会計とは有形財に焦点を当てていって、あくまでも商取引を前提としています。お金の支払いがあって、所有権の移転があったかどうか、あるいはサービスの対価をもらったかというお金の移動を前提とします。こういった中では、損益計算書や貸借対照表――P/L(プロフィットアンドロス)とB/S(バランスシート)で一通りの説明ができていたということです。
こういった生産型経済の中では、キャッシュフローは当然、有形財に再配分されてきました。この中で生み出されたお金、利益はまたそれが一回りし、施設になり、材料になりということで再配分をされていきました。
一方、知識型経済の枠組みはどうかというと、これだけでは済まないんです。すごく単純化したモデルで、設備、材料としましたけれども、実際に価値を生み出すまでには、その中にパートナーシップや技術開発力、熟練・ノウハウ、顧客情報、ブランドといった価値を生み出す見えない資産が必ず存在しています。ここでは見えない資産または無形財という言い方をします。こういった見えない資産が存在して価値を創出しているということです。
見えない資産とは、人材、技術、組織力、あるいは顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えにくい知的な資産をいいます。これから説明しますけれども、見えない資産は原則として企業に固有なものです。極端な話、設備や人、材料はどんな企業でも金を出せば買えるものですけれども、これから説明をする見えない資産は、まず他社がまねできない独自の強みがあるということです。それが真の競争優位の源泉となります。
先ほどのiPhone4の価値創出モデルですけれども、iPhone4は単に人があって、設備があって、材料――電子製品の部品だけで産出されるわけではありません。iPhone4に対してお金を払っている人たちは、当然さまざまなアプリケーションの使い勝手を魅力、価値と感じますし、iPhone4、マッキントッシュというブランドにも価値を感じていいます。それとiPhone4を生み出すためにさまざまな技術開発力や熟練ノウハウといった知識が集合していますけれども、当然そこにアプリケーションを提供するパートナーという存在が組み合わされてiPhoneという価値を創出しています。
これは先ほどのテープレコーダーと比べるともう少し複雑なモデルですよね。テープレコーダーは、設計図をかいて、生産ラインを一通りつくって、あとはどんどんつくっていくだけですが、iPhone4はさまざまないろんな要素が絡み合って、次々に新しい価値をつくっている。その中でだんだんと製品の価値を進化させていっているのが大きな違いになります。
こういった価値を創出する見えない資産は、当然P/L、B/Sにあらわれません。これは当たり前のことです。当然、P/L(プロフィットアンドロス)、あるいはB/S(バランスシート)はお金が行ったか、返ってきたかを前提にしていますが、見えない資産はお金が流れていませんので、こういうものにはあらわれてきません。価値創出の要素がなかなか見えてこないのが現状です。
このように価値創出の要素が見えてこないので、事業でキャッシュフローが生まれてもなかなか価値創出の要素に対して再投資されません。ほとんどの場合は利益が出たから設備を新しくしようとか、人をもう少し増やそうかとか、材料をもっといっぱい仕入れようとかということになってしまって、なかなか見えない資産には再分配されにくいという背景があります。
企業の真の競争優位の源泉は、必ずこの見えない資産から生み出されています。ほとんどの中小企業では、自分が持っているこの見えない資産にはなかなか気づきません。人間の心理で、隣の芝生は青く見えるではないですけれども、どうしても他社のよいところばかりに目がいって、自分たちの持っている本来のよさに気づかないのです。
また、経営資源には二つの意味があります。まず一つが、物理的に不可欠なもので、人、物、金は有形財と言われる実際に形があるものです。あとはうまく活動を行うために必要な情報とかノウハウが無形財と言われるものです。この中で、見えない資産は、皆さんが中小企業の経営をするに当たって、当然、戦略を構築したり経営の方向性を決定するのにすごく重要な要素になります。その理由はここの三つです。競争優位の源泉、変化対応力の源泉、それから事業活動が生み出すものだからです。
ご説明しますと、見えない資産はお金で買えなくて、自分で育てないといけません。年月がかかるわけです。いろんな試行錯誤とか失敗を繰り返していって、見えない資産は蓄積されていきます。だから、業績が20年以上ある企業ですと、お客様がさまざまな事業活動で価値を創出していく中で必ずこの見えない資産は築かれ、蓄積されていっています。
それともう一つは、変化対応力の源泉であることです。後からご説明しますが、技術ノウハウ、あるいはパートナーシップ、ブランドは、新しい次の新事業分野にいったり、お客様を別にした場合でも対応ができる変化対応力の源泉であるということです。
もう一つが事業活動を生み出すものであることです。通常の有形財は、お金を投資して生み出されるものですけれども、この見えない資産は、事業活動の蓄積として生まれいきます。こういった背景があります。
一つずつ説明していきます。
見えない資産の三つの性質です。ここはさっといきますね。金を出しても買えないこと、つくるのに時間がかかること、同時多重利用ができることが競争優位の源泉ですし、変化対応力の源泉となります。
お金で買えない、つくるのに時間がかかるということで、宅配便を例にとります。お金で買えるものはトラックとか倉庫、お金で実際に買えないものは訓練されたセールスドライバー、あるいは日々の日本全国の複雑な物流を管理する情報システムです。ある企業がトラックや倉庫を買ったからといって宅配便が始められるかというとできません。というのは、訓練されたドライバーは、創業当時から日々細かく蓄積してやっと積み重ねてきたもの、あるいは情報システムにしても最初から完成されたものではなくて、日々、事業活動を大きくしていく中で、試行錯誤しながら生み出されてきたもので、お金で買えないものです。ここに書いていますように、当然、競争優位は、よく訓練されたドライバーや事業活動の蓄積で生み出された情報システムから生み出されます。
中小企業のスーパーマーケットの例、これは結構ある話ではないかと思います。面積の広い大店舗だったり、大量の商品だったり、あるいはチラシとかテレビの広告宣伝、こういたものは当然お金で用意できます。一方、お金で用意できないものに生鮮のノウハウがあります。スーパーマーケットの中には、肉屋さんとかお魚屋さんが入っています。特にお魚屋さん、あるいは野菜とかの生鮮産品は別の個人商店がテナントに入っている場合が結構多いんですが、生鮮産品を扱うノウハウは、やはり熟練された人間の蓄積が要ります。
こうしたものはどうしても差が出てきます。あるいは、柔軟な運営方法、地域との関係、顧客のロイヤルティーなどはお金で用意できないものです。こういった場合の競争優位は、熟練社員の生鮮仕入れのノウハウあるいは地域住民との関係、柔軟な運営方法から生み出されるわけです。
これらは大手スーパーでは模倣できません。これがすごく重要になります。なかなか中小企業ではここからスタートできないんですけれども、お客さんが何に価値を感じるかでスタートすると、こういった見えない資産があれば必ず競争優位になります。お客さんが何を求めているのか。
それは大きな店舗とか大量の商品、広告宣伝ではなくて、こういったものにお客様は価値を感じるということです。このようにお客さんの価値から考えて、自分たちの競争優位の源泉である見えない資産に着目をすれば、中小企業でも必ず競争優位が実現できます。
ところが、実際に大店舗が近くにどんと構えた離島のスーパーマーケットの例では、どうしても隣の芝生は青く見えるようで、中小企業の経営者も従業員も、その大店舗に目がいってしまって、自分たちの見えない資産に気がつかないんです。自分たちの店は狭いし、商品もそんなにないし、広告宣伝もできない、どうしてもそういったところに目がいってしまいます。しかし、あくまでも顧客価値からスタートすれば、必ず自分たちの見えない資産に気がつくはずです。
ここで言いたかったのは、お金で買えない、つくるのに時間がかかるということです。こういったお金で買える、すぐに用意ができるものと、お金で用意できない、すぐに用意できない、つくるのに時間がかかるもの、この二つが存在します。どんな中小企業でも、お客さんに価値を提供する事業活動の中で、こういった見えない資産が蓄積されていますので、お客さんの価値、見えない資産をベースにすれば必ず競争優位は実現できるということです。
次に、同時に重ねて利用できるというところをご説明します。物的財は原則的に同時に使用できません。一番わかりやすい例で言うとホテルです。ビジネスホテルだと、ビジネスホテルとして部屋を提供している限りは、その部屋はほかのものに使うことはできません。あるいは生産工場ですと、生産のラインが回っていると、その生産ラインをとめない限りは、ほかの生産に活用したりはできません。こういった物的財を活用している場合、新しい事業分野に進出しようとしても当然使えません。
一方、見えない資産は同時多重利用が可能です。さまざまな価値を生み出す見えない資産は、新しい事業分野にいった場合でも同時多重利用が可能で、新たな環境変化に対応する源泉となります。今、環境変化が大変激しい時代で、今まで売っていた製品がいきなり売れなくなったり、お客さんが変わったりするんですけれども、この見えない資産に着目することで環境変化に対応ができます。
こういった見えない資産を活用した成功例として、まずよくあるパターンは法人営業の会社が新しい製品を売り出す場合です。法人営業なので比較的成功しやすいパターンです。今までとある会社が商品Aをとある法人に売っていた。この商品Aを売る中で、この会社が持っていた見えない資産は、提案力とか商品知識です。提案力はコストダウンであったり、相手の利益に対して何らかのプラスになる提案ができることです。そしてもう一つ、こういった中で、お客さんとのネットワークという見えない資産が構築されていっています。
商品Aを一通り販売しましたので、別の商品を用意しましょうと商品Bを用意するんですけれども、この場合、提案力や顧客ネットワークといった見えない資産をそのまま活用できるということです。今までにここで蓄積されていた提案力、顧客ネットワークといった見えない資産が、新しい商品Bにもそのまま活用できます。商品知識が若干不足していますので、そこに着目してすぐに強化していけばいいわけです。
よくある失敗例です。これはとあるITベンチャーの例です。このITベンチャーは、ITサービスをお客さんに提供していましたが、どうしても無形ですし、オーダーメイドでつくって売るという形になりますので、なかなか売り上げが安定しません。この中の組織の強みは、当然ITのことが好きな人なので、そのITを好きな人が持っている技術・知識や学習意欲だったんですけれども、商品Bを売りましょうといった場合に、こういったものが使えないということです。
ここにいる組織の人たちは、商品を売ることが好きなわけでも、商品の技術や知識があるわけでも、あるいは商品を売ることに対して学習意欲があるわけでもありません。こういった場合、商品はあって、お客さんはいるんですけれども、売れない。同じ商品、同じお客さんでも売れる、売れないがはっきり分かれる。このように、ナレッジ社会では、見えない資産の重要性が高いということです。
これはどういうことかというと、環境変化があっても柔軟に対応できますし、大手企業あるいは競合他社からも模倣されない。自分たちの見えない資産を活用して、お客さんに価値を提供することで、自分たちの生存領域をしっかりと確保できるということです。
先ほどの黒川温泉の例でもう一回説明しますと、黒川温泉は自分たちの価値創出プロセスがしっかりと確立しています。ですから、価値がどんどん蓄積されていっています。当然、環境変化があれば柔軟に対応できてきますし、競合他社、他の温泉地は模倣できない。こういったことを利用して、黒川温泉のオリジナルの土産物をつくったり、自分たち独自のイベントを開催することができます。こうしたことでまた新しい価値を創出することができます。入浴手形もそうですよね。ああいったものもそれぞれが持っている見えない資産を活用して生み出した新たな価値です。
一般的な新たな価値を創出できない、温泉旅館にありがちなパターンは、物中心的な経営です。大規模な旅館があって、大浴場があって、大宴会場があると、この三つをそろえて何とかしようという考え方です。こうした場合、環境変化があったとき、特にお客さんの構造が変化した、あるいはすごく景気が悪くなった、あるいは何かしら問題が発生してといった場合、対応がどうしても限定的になるということです。
それから特に物中心の経営はどうしても後発有利です。だんだんと陳腐化していきますので後発有利になります。こういうことをしていくと、だんだんとお客さんに提供していく価値が陳腐化していき、結果としては、値引きをしたり、食べ放題、飲み放題をつけたよくわからない企画商品を生み出したりと、お客さんに届ける価値がだんだんと陳腐化していきます。黒川温泉は、自分たちの価値創出プロセスをうまく活用して、環境の変化に対応でき、その他温泉旅館はなかなかそれができないということです。
もう一つは、事業活動から生み出されるということです。これが重要なことですけれども、有形財は投資の結果、その対価として生み出されます。設備とか材料とか人はお金を出してあくまでも企業が所有もしくは使うものです。これは当然そうですよね。P/L、B/Sに載るのは、お金を払うか、いただくかして、企業の取引として結果が残っていくものです。
では、見えない資産はどういうものかというと、企業が日々事業活動をしていく中で何らかの形で蓄積されていくものです。これは後でご説明しますけれども、見えない資産は、企業が活動していく中でさまざまな情報が流れていって、ブランドとかパートナーシップ、技術、組織力、業務手順といった形で蓄積されていっているものです。お金を払って得ているわけではない。確かにブランディングのための広告はお金を払ってやるものですけれども、通常は日々の業務活動の中で無自覚のまま蓄積されていっています。
これからが本題ですけれども、見えない資産がマネジメントされているかどうか、これが今日のセミナーの一番の中心です。先ほどの見えない資産については、おそらくほとんどの中小企業で無自覚のままやっているのではないかと思います。経営者は自分の会社のことを知っているつもりでも、意外とお客さんの立場での自分たちの会社の魅力は知らないものです。現場の人たちや社員の人たちのほうがよく知っていたりします。
こういった見えない資産がわからないまま日々の事業活動をしていた場合には、結局その経営者は、本来の自分たちの一番の中心、中核となるものに着目をしないで、「こういうふうにもうかりそうだぞ」「こういう市場がもうかりそうだ」と安易にそっちに走っていってしまいます。重要なのは見えない資産をしっかりと把握すること、それから測定もしくは評価されていることです。
私も経営コンサルタントとしていろんな企業に入って、経営の診断をするわけですけれども、一般的なマネジメントといった場合には、P/LとB/Sを見て、それを業界平均と比較をして流動比率がどうだとか、固定長期適合率がどうだとか、業界標準と比較をして何%で、原価率がこれだからこう改善しましょうとか、人件費が多いからここを改善しましょうかということになると思います。もしくはSWOT方式です。企業にとっての強みは何ですか、弱みは何ですか、ビジネスのチャンスは何ですか、ピンチは何ですかとか、そういう一般的な話で経営診断は進んでいくと思います。
一方、見えない資産は、ほとんどの場合、マネジメント対象外で、企業の中に暗黙知として存在します。だれも気づいていない場合が多い。
こういった中で、ご紹介するのが北欧の取り組みです。まず、今回の見えない資産の説明です。その背景で、もっともらしい学術的な名称がついています。最近、よくこういう言葉を目にするかもしれませんけれども、「知的資産経営」という名前がついています。ここで言う知的資産は、先ほど言った企業の中に眠るP/L、B/Sにあらわれない見えない資産を言います。よく知的財産と混同される場合が多いんですけれども、知的財産とはあくまでも企業の将来的な便益を法律、パテントで保護するものです。それとは違い、もっと幅広い概念のものです。
こういった知的資産の経営の手法は北欧で体系立てられ、日本に輸入されてきています。でも実はもともとそのベースにあるのは、日本人の商学部の教授が考え出した「見えざる資産」という概念です。皆さんも名前を知っているかもしれませんけれども、伊丹敬之教授という一橋大学の商学部の教授です。その方がさまざまな自分の書籍の中で、日本企業の競争優位の源泉は見えざる資産である、これをうまく活用することで日本は国際競争力を高めていったと書いています。
おそらく北欧の人たちがこれを読んで、自分たちの中に取り込んでマネジメントツールとして体系立てたものが、今、日本に再度輸入されて知的資産経営という名前で広まっています。
北欧と日本は、結構似ています。まず、国内市場に制約があることです。北欧と言った場合、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークとありますけれども、そんなに人口が多いわけではありません。それから地理的な制約があります。ヨーロッパやアメリカ、あるいはアジアに比べると北半球の上のほうにあるため、物流の拠点とするには不向きである。それから天然資源の制約があります。
一見したところ、国際競争力では不利ですけれども、北欧にも、今現在、日本でも名前が知れわたっている世界的に有名な企業がたくさんあります。まずその一つはエリクソンです。ソニー・エリクソンという携帯電話端末をつくっている会社と言えば皆さんおわかりではないかなと思います。スウェーデンの通信機器メーカーで世界最大の移動体通信、地上固定設備のメーカーです。ノキアもフィンランドの電気通信機器メーカーで、携帯電話端末では世界最大のシェアを持っています。
それから携帯端末関係以外では、今度、福岡にできるんですか、大阪とかにはできているのかな、イケアという家具のお店です。スウェーデンが発祥で、ヨーロッパ、北米、アジア、オセアニアで店舗展開する家具店です。それからファストファッションではH&Mです。これも今度福岡にできるのかな。ユニクロとかギャップと同じで、スウェーデンで発祥したちょっとおしゃれな感覚のファストファッションブランドです。
こういった北欧企業の強み、競争優位の源泉は見えない資産です。北欧企業は、ほとんどの場合、自社の生産設備を持たないファブレス経営で、製品開発に特化しています。そういった北欧企業の一番の強みは優秀な人材にあり、それを支える高度な技術やきめ細かなオペレーションです。そういった見えない資産の認識・測定・強化の重要性を早くから感じていました。
北欧企業の問題点は、一般に国際競争力を考えた場合に、通常は財務諸表――P/LとかB/Sを投資家に見せても、資産もなくて業歴もない北欧企業はなかなか評価されづらかったわけです。このバランスシートに自分たちの生産設備があるわけでもないし、損益計算書では人件費がものすごく高かったり、研究開発費が莫大だったりで投資家になかなか評価されませんでした。
そこで、外部関係者への情報開示ツールとして考えられたのが知的資産経営報告書です。後からご説明しますけれども、この北欧の企業が取り組んだ自分たちの見えない資産のマネジメント結果をレポートにまとめて公表するものです。これをP/LとかB/Sの補足資料として公開することで、投資家からの資金調達、国際競争力を高めようということが背景にあります。
先ほど言った知的資産は、知的財産と勘違いされることが多いです。無形財(Intangibles)、知的資産(Intellectual Capital)、あるいは知識資本と言われますが、本講義では見えない資産で統一しますけれども。なかなか知的資産は目に見えないものなので、細かく説明しようとすればするほど余計こんがらがってしまうんですが、将来の利益を約束し、非金銭的もしくは非物理的な実態を持たないもので、企業がコントロールまたは影響を与えることが可能なもの、これが見えない資産です。
北欧でこういった見えない資産の重要性がだんだん高まってきてできたのが、MERITUMプロジェクトと言われるものです。言葉が難しくて申しわけないんですけれども、正式に言うとイノベーションマネジメントの理解と促進に向けての無形財の測定です。イノベーション――世界に新たな価値を提供するために、今まで説明した見えない資産を理解してその活用を促進しましょうということです。これが始まったのが1998年で、参加したのがデンマーク、フィンランド、フランス、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、こういった国で無形財についての促進活動というプロジェクトが生まれました。
経営手法はいろんなはやり廃りがあって、ほとんどの場合アメリカから輸入されてきたんですけれども、知的資産経営がこれまでと一つ違っているのは北欧から輸入されてきたことです。もともと日本企業が知らないまま実践していたことを北欧が体系化して日本に逆輸入してきたということです。
プロジェクトの背景ということで、ちょっと学術的に、先ほどの復習も兼ねて説明いたします。知識型経済への移行とビジネス・モデルです。簡単に言うと、まず生産型経済から知識型経済にビジネス・モデルがすごく変化しました。結果として、今までのP/L、B/Sでマネジメントすることには限界が生じました。そこで、違うマネジメント手法とレポーティングを生み出さなければいけなかったことが背景としてあります。これについてはさらにご説明します。
少し学術的な説明が続いて、部屋もちょっと暑いので、ここで10分間ほど休憩をとりたいと思います。
( 休 憩 )
それでは、後半を始めます。学術的な話が続いて申しわけないんですけれども、背景をご説明していきます。先ほどご説明したように、従来の生産型経済から知識型経済に移行しましたよ、企業の競争力の限界としてナレッジがありますよ、ナレッジを把握して、測定して管理する能力が企業の競争優位の源泉ですということでした。
これは先ほどの分析と競争優位の源泉は、あくまでも見えない資産を把握し、測定して管理する能力だと。これがないと、ナレッジ型経済への移行には対応できないし、ビジネス・モデルの変化にも対応できません。そして、競争優位の源泉であるナレッジを理解するということです。
もう一つが伝統的財務報告の限界です。伝統的な財務報告はナレッジを的確に測定しません。こういう中でキャッシュフローが生み出されてP/LやB/Sがつくられても、実際にどう資金配分すればよいか明確でない。ほとんどの場合、P/L、B/Sに持ってくるのは企業のお金の取引だけなので、こういったもので生み出されたキャッシュフローは、見えない資産に再投資されるわけではなくて、有形財に再投資されます。こういった中では伝統的財務報告には限界があります。
診断や経営戦略を立てるときの手法ですけれども、今よくあるのがSWOT分析です。企業の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)ということでSWOT分析を立てます。簡単に言うと、企業の強みを一番の機会、ビジネスチャンスにもっていきますというのがSWOT分析です。先ほど申しましたように、その背景にはまたP/LとB/Sがあります。
一般的な経営診断ではこのSWOT分析を教科書どおりやるんですけれども、市場の一番のチャンスに何かの強みを見つけましょうといった場合、中小企業はどこも結果が大体同じになるわけです。このSWOT分析では、どこのコンサルタントがやっても結局同じような結果が出てしまいます。なおかつ、強みと弱みは表裏一体のものです。そのときの環境に応じて、当然強みが弱みになったり、弱みが強みになったりします。SWOT分析は主観的なもの、表面的なもので、実際にそれを現場に走らせると全く認識が違ったことになりがちです。
もう一つのP/L、B/Sは、先ほど言ったように事業活動の特定の一部分しかあらわしていません。大抵の場合、これを見て原価率がどうだとか、人件費率がどうだとか、流動比率がどうだということを業界平均と比べて財務診断を行います。
私も反省をしているんですけれども、こういったことが経営コンサルタントとしてよくある間違いの例です。基本的には1950年代あるいは高度経済成長期に考えられてきた経営診断の手法あるいは、マネジメント手法がまだそのまま残っている。しかし、現実の社会は、もっと複雑、高度化していて知識型経済に移行しているということです。
こういう中で、北欧では、見えない資産をマネジメントしてレポーティングするための基本的なガイドラインを作成したわけです。まず、内部管理のためにマネジメントの効率性を促進し、財務業績を改善するために、無形財――見えない資産を把握して測定して、コントロールする能力を開発するのを助成する。あと、外部報告ということで、これが今回の見えない資産のもう一つのポイントですけれども、レポーティングを前提としています。企業のほんとうの魅力を理解してもらうために、自分たちが見えない資産のマネジメントに取り組んだその結果を報告書にして公表します。
こういったガイドラインの枠組みは、見えない資産の学術的な分類を行うことと、内部管理で見えない資産を把握し、測定し、評価することです。なおかつ、それを報告書にする。文字と数字がだーっと並んだものではなく、ビジュアル、イラスト、写真を多用した見やすく読みやすいレポートです。北欧の取り組みは、こういった共通のフレームワークを確立することでした。
ここのところはもう飛ばします。四つの課題ということだったんですけれども、重要なのは分類研究とマネジメント・コントロールシステム研究です。あとは株価です。資本市場に対してどのような影響を与えるかが研究されてきたんですけれども、実際これは中小企業の経営には関係ないですし、ここのところはまだしっかりと体系立ったものはできていません。あくまでも今日は、中小企業の経営にとって競争優と変化対応力の源泉となることがポイントです。
先ほどから見えない資産と言ってきましたけれども、どう分類されるのでしょうか、見えない資産にはどういった種類があるのかをご説明していきます。見えない資産の本質は情報です。情報は事業活動と同時に流れてきます。内側に流れる情報もありますし、外との関係で流れる情報もあります。
では、この情報はどこに蓄積されるのかというと、まず従業員の頭の中の知識として、情報というのは存在します。中小企業の場合では、優秀な営業や優秀な技術者がいたり、あるいは一人でこういうふうに対応しているとか、ほとんどの場合、特定の人に偏っているんですが、中小企業の従業員の頭の中に、見えない資産が蓄積されていきます。
もう一つ、企業に形式知として存在している分があります。中小企業の活動の中でさまざまな情報が出てくるわけですけれども、それをデータベースや業務手順としてまとめたり、あるいは運営ノウハウとしてマニュアルをつくったり、日々の事業活動で蓄積された知識が形として残ったものが形式知として存在しています。
中小企業の場合、意識していないので、なかなかこの蓄積ができていません。今のファミリーレストランあるいはコンビニエンスストアも最初から細かいマニュアルができていたわけではなくて、日々の業務の蓄積の中で試行錯誤しながらできてきたものです。こういうものが企業の形式知として存在しています。
もう一つが外部との関係に蓄積されるものです。今までの人とか組織は単独の企業の中に存在しましたけれども、ブランドや信頼関係はお客さんとの関係の中で構築されます。特にブランドはお客さんの頭の中に存在するものですし、パートナーとの信頼関係はお互いの取引の中に存在するものです。こういったものも見えない資産として蓄積されていきます。ところが、中小企業の場合はこういったものに気づかずに自分たちのブランドとかパートナーシップをなかなか生かせません。これも一つの実情です。
このように情報が蓄積される場所は、人の頭の中、それから組織、外部との関係と大きく三つに分かれます。情報が事業活動で生じ、人の頭の中に蓄積される。この知識は、その人が退職した場合には持ち出されてしまうものですけれども、一緒に働くことで共有化されます。その中には、手順なりデータベースとして組織の中に残っていくものがあります。あるいは日々の事業活動の中でお客さんとのブランドとかパートナーの信頼関係が蓄積されていきます。
無形財の分類でMERITUMのレポートによく出てくるのが、人的資産、構造資産、関係資産といわれるものです。人にある強み、構造にある強み、関係にある強みと理解してください。人にある強みは、まず、企業が価値を創出するための一番のキードライバー、最もかぎとなる推進力です。
やっぱり企業は人間の知識の組み合わせで価値を創出するので、ここをどう強くするかです。従業員の退職時に一緒に持ち出す知識で、イノベーション能力、創造力、ノウハウ、過去の経験、チームワーク能力、柔軟性、それからモチベーション、学習能力、忠誠心、教育・訓練等があります。
よく中小企業の経営者は「いや、うちの従業員にはそんな資産はありません」という言い方をされますが、実際にはそこで10年、20年仕事をやっている人は、日々の業務の中で試行錯誤を繰り返していますので、ちゃんと聞いていけば必ず何か持っているんです。ただ、周りがそのことに気がついていないで、本人も無意識のうちにやっているわけですが、大企業ではできないようなことは、中小企業の従業員はできていたりします。
逆に、一番中小企業の中で眠っているのは人的知識ではないかと思います。一つの例ですけれども、パートの人たちの集団があって、その中にリーダーがいたりします。中小企業の普通の経営者にとっては当たり前かもしれませんけれども、実際こういうことがほかの大企業、同業者ではできていないんです。
こういった、ほんのちょっとしたリーダーシップでも大きな強みになります。あるいはその企業の中で、自由な風土の中でチームワーク──社員旅行にみんなが参加するとか、イベントがあって参加するとか、飲み会をしょっちゅうやっているといった社外でもコミュニケーション活動が盛んだといったことも一つの強みになるんです。
次が、構造資産です。先ほど言った形式的な知識のことで、組織の業務手順がしっかりと柔軟にまとめられているかどうか、あるいは文書サービス、マニュアルができているかとか知識センター、データベースがあるか、こういった構造的な知識です。1人の頭にあったものを文書や図表に数値化していって組織の中に残していくもの。
先ほど言ったファミリーレストランあるいはコンビニエンスストアのマニュアルは、まさに構造的な知識の代表的な例です。組織がノウハウや業務マニュアルをきっちりと蓄えています。ジュンク堂書店とかスターバックスは、出店をする際の商圏分析をきっちりと自分たちのコンピューターの中でシミュレーションして確実にやっていくわけです。ああいったのも最初から持っていたものではなくて、今まで何度も試行錯誤をしてきた中で生み出されていった構造知識、構造資産です。これが中小企業にはないかというと決してそうではなくて、中小企業の場合は、逆に運営ノウハウの融通性、小回りがきくことが大変大きな競争戦略上のポイントになります。
もう一つが関係資産と言われるものです。外部との関係で生み出される資産で、イメージや顧客ロイヤルティー、顧客満足度、供給業者との関係、宣伝力、金融機関への交渉力、環境活動などです。あと最近はコンプライアンス──法令遵守が一つの大きな強みになります。最近はいろんな法律が複雑化されて、どんどん厳しくなっていく中で、法令遵守ができているかどうかも一つ重要なポイントです。
こういった見えない人的資産や構造資産、関係資産の活用が戦略目標の達成につながっていきます。こういった見えない資産をベースに戦略を構築することが、すごく重要になってきます。
ここは簡単に説明しますけれども、マネジメント・システム、このような見えない資産のマネジメントをどういうふうにしていくかです。知的資産経営は北欧から基本的に輸入されて、また日本のやり方に応じてさまざまに開発されていっています。これは経済産業省の中小企業庁が示したガイドラインもありますし、それぞれのコンサルティング会社が独自に開発していった手法もあります。
本日はMERITUMモデルという北欧で考えられたマネジメント・システムを基本にざっとここで紹介をしていきます。この中は、見えない資産を認識すること、それを測定すること、実行段階でアクションに移していって改善をしていくこと、もう一つが内部的もしくは外部的なレポーティングを行うことに大きく分かれています。このようなマネジメント・システムになっています。
まず、フェーズ1、戦略目標に必要な資産について、まず中小企業の現状と目標があって、目標に進んでいくプロセスをどう構築していくかという戦略です。どういった見えない資産が価値創出プロセスに最も貢献するのか、あるいは競争優位を高めるのかを抽出して把握するプロセスが最初です。
通常の実務のやり方では、中小企業の経営者に創業からの歴史をずっと聞いていきます。現場で働いている従業員には、どんな仕事をしてどんなことが楽しかったとか、仕事をしてどんなことでうまくいったと感じたか、達成感を感じたとか、そういうヒアリング・ベースで進めていきます。同時に企業が価値を提供するビジネス・プロセスをまとめて、その中で見えない資産を抽出します。
後でご説明しますけれども、どういうときに見えない資産が蓄積されるのかというと、多くの場合、企業が何かしら新しいことを始めた場合とか、あるいは企業に何かしら外部環境でピンチがあってそのときに対応しないといけなかったとき、変化に対応したときに見えない資産が蓄積されています。
見えない資産のネットワークは、ブレークダウンして把握するわけです。見えない資産ということで、こういったことは基本的に概念的なものですけれども、では見えない資産のリソース――見えない資産のもとになっているものは何か、資源は何か、創造したり開発する必要がある資源は何なのかです。
例えば、チームワークといった場合にチームワークをこれからよくしていきましょうということで、飲み会をたくさんしましょうとかミーティングをたくさんしましょうとかではあまりにもあいまいというか概念が広過ぎますので、ブレークダウンします。例えばチームワークですとリーダーシップが必要ですね、あるいはコミュニケーション能力が必要ですね、あるいは目標達成意識が必要ですねということで、それぞれの見えない資産の資源(リソース)となるものを決めていきます。
このリソースは、難しい言い方をすれば、見えない資産の一時静的な状態ということになるんですけれども、このリソースをどう増やしていくのかもそれぞれ指標をとっていきます。
リソースを創造、開発するための活動を考えていきます。リソースを新しくつくったり、あるいは評価のための活動について、それがリソースの強化あるいは新しく生み出すことに貢献しているのかどうかを評価します。このようなシステムのモデルを組みます。これは最初にがちっと組んでしまうわけです。ほかのやり方では重要業績評価指標で、KPIを設定したりもしますが、このやり方は、より企業の短期的な利益ではなく長期的な利益を見据えて、見えない資産に着目したものです。
こういった例があります。戦略的目的がマーケットシェアの拡大、重要な無形財、優秀な人材の維持といった場合には、当然リソースとなるのは高度に訓練された優秀な人材はリソースですし、資源を促進したければ無形財活動としてトレーニング活動がある。その結果を評価するのは従業員調査です。このようにある程度ネットワークのスキームが組まれます。
それぞれの無形財に指標を定めて次はリソースとか促進活動や評価活動を測定します。リソース、これはそのまま原文からもってきていますので、難しいかもしれませんけれども、しっかりと訓練された従業員の比率はどの程度か、あるいはトレーニング時間とかトレーニング・コストがどうなっているのか。それに対しての評価活動で、従業員にとっての満足度などを見ます。こういったことを設定していきます。
次がアクションです。実際に日々の事業活動の中でこういった活動が行われるわけですけれども、この活動にかかった時間とかコストを調べて、その活動にかかった時間とコストがどのように効果的な影響を与えたか、その結果として見えない資産のリソースが新しく生み出されたのか、あるいは開発されたのかを評価します。このように活動が資源にどのように効果を及ぼしたかを評価することで、次の新たな活動の必要性が把握されます。
もう一つはICマネジメントを統合することです。既存のマネジメント・ルーチンである労務管理や業務管理、企画管理、財務管理などの中でさまざまな数値、あるいは報告等が上がっていますけれども、この中にマネジメント・システムを統合してルーチン化するということです。
その中で測定指標のレポートを出して、経営者が資源の活用の影響を評価して、現行のルーチンやシステムを改善していきます。その最終的な結果として、これらの一連の流れをレポートにまとめて、内部もしくは外部に報告をしていきます。伝達することで見えない資産の蓄積が進んでいきます。
あとは知的資産報告書のモデルで、書き方はいろいろあるんですが、ガイドラインには、企業のビジョンを書いたり、資源と活動、指標の体系が掲げてあります。この辺は学術的なことなので、今日は深くお話ししません。
知的資産経営は競争優位を確立して戦略目標を達成するため、見えない資産を把握・測定・評価するマネジメント・システムです。今まで報告書をまとめて終わりということが結構多いのですが、自分たちの強みが本当は何なのかをしっかりと把握して、それが日々蓄積されているかどうかを測定して、評価して、PDCAサイクルを回す。こうすることで企業の競争優位、あるいは変化対応力の源泉が生まれます。
また、それをしっかりと外部、あるいはパートナーに伝えていく。自分たちが価値を創出していくプロセスの中で、当然、従業員にも伝えなくてはいけませんし、関係資産──取引先とのパートナーシップ、お客さんとのブランドづくり等を促進するためにレポーティングを前提としています。
レポーティングをすることでかかわる人たちの意識が集中します。それでさらに見えない資産の蓄積が進みます。どうしても掛け声だけでは難しくて、レポーティングしないとなかなか全体像がわかりませんので、レポーティングを前提とするということです。
これから知的資産経営の事例をお話しします。今日お話をするのはソース会社ですけれども、これはフィクションの会社です。知的資産経営では結構奥のほうまで手を突っ込みますので、全部をデータとして公表するわけにはいきません。私の知っている企業の幾つか寄せ集めをして、つくったものですけれども実態に近いものができていると思います。
実際に知的資産経営に取り組んだ中で企業がどう変わっていくのか、そして変化にどう競争優位を発揮して、どう対応していくかをご説明していきます。
今回ご説明するのは架空のソース製造業の会社です。ハギンズ・ヤングソースという株式会社で創業が1973年、資本金が2,000万円、従業員が30名、本社は福岡県のO市にしています。従業員が30名で、売上高が6億3,000万円──1人当たり大体2,000万円の売上高です。営業利益が1,611万円で、大体2.5%です。取り扱いの製品は、ウスターソースそれから各種料理用ソース、レストラン向け業務用ソースです。
主要な販売先が、スーパーマーケットでE社とか、農産物直売所、飲食チェーン、ホテルです。こういった30名の企業がどう知的資産を有効活用しているかをご説明していきます。
まず、製品の特色です。まず伝統的な製法でソース類の製造を行っています。ハギンズ・ヤングブランドとして常時40種類以上の製品を取り扱っています。製品の種類は大きく二つに分かれ、ウスターソースという基本ソース、それから特定の料理に使用されるバラエティーソースです。
ウスターソースは、日本風と英国風と二つに分かれるんですね。日本風はトマトピューレを使った濃厚なソースですけれども、英国風のウスターソースは、アンチョビとかスパイスをふんだんに使った何ともいえない酸っぱい味になります。ここはトマトピューレの日本風ソースとアンチョビをふんだんにつかった英国風ソースの2種類を取り扱っています。
ソースの基本であるトマトピューレは自社で製造しています。酸味の強いトマトが日本の特定の地域で産出されますので、これを使ってソースのベースになるトマトピューレをつくっています。また、製品によってブレンドが違って、味のバラエティーを広げているということです。それから、特定の料理に使用するバラエティーソースをそのときの話題や、地域の食材の旬に合わせて提供することが製品の特色です。
販売の特色ですけれども、主要な販売先が二つあります。県内のスーパーマーケットチェーン、老舗の比較的高級層、高所得層に向けのスーパーマーケットチェーンE社50店舗と、あと農産物直売所が42カ所、この二つです。この2カ所はウスターソースをメーンとするレギュラー製品を、常時5種類程度提供しています。また各種バラエティーソースについて、取引先と販売企画を立てて提供しています。ほかにも県内レストランやホテル等から、こういうソースをつくってくださいということがあった場合には、OEM委託を受けて、相手先のブランドで提供します。
製造の特色は、自社工場で製造している点です。ただ、ロットの大きい基本ソース、ウスターソースとかは一部工程をアウトソーシングしています。バラエティーソースの多品種、少量生産を実現するために、各工程を独立させて情報システムで一貫して管理しています。もう一つが各ソースのレシピ、あるいは試作品開発時の情報です。素材をどう加工したか、味はどうなるのか、色がどうなるかはデータベース化されていて、新しい製品の迅速な開発を実現しています。これが販売と製造の大きな特色です。
経営理念として創味工夫をうたっています。ここに書いてある創業者の名前は私が勝手に考えました。岩田鉄五郎が英国ウスター市で培った伝統的なソース製造方法を守り続けています。ソースづくりにかかせない、フォン(だし)、トマトピューレの自社製造技術、多様な味の表現を可能にするスパイスのブレンド技術、まろやかな味わいを生み出す熟成技術、当社が業歴40年で培ったソースづくりの技術は、市場から高い評価を得ています。
ただ、こういうふうに伝統を守るだけではなくて、ここに書いていますようにさまざまな料理の味を引き立てる新しいソースを開発しているということです。プロの味をご家庭で手軽に再現できるソース、地域の食材をさらにおいしく食べるソース、今までだれも味わったことのないソースをハギンズ・ヤングソースは提供し続けますと。
この会社の一番の大きな特徴は、地域の皆様に一番愛される、地域ナンバーワンのブランドとして、培った伝統を土台に新しいおいしいの創造に挑戦しますということで、今までの伝統を守りつつも新しいものを創造していく、しかもそれは地域に限定されることがこの会社の経営理念です。
この会社のビジネス・モデルです。仕入、製造、物流、販売がありますけれども、仕入れはそれぞれのパートナーから行っています。今まで長く契約しているY合同青果やPスパイス、契約農家、醸造酢の提供を受けているF沢酢造などがあります。製造は工程が大きく四つに分かれるんですけれども、前処理で野菜を洗ったり切ったりした後、蒸して煮る。形を変えたものを一つの大きななべの中に放り込んで調合します。そして熟成をしてろ過をして充てんします。これが基本的なソースづくりの流れになります。
そのうちの熟成から先を一部F沢酢造にアウトソーシングしています。物流に関してもアウトソーシングをしています。販売先としてはスーパー、農産物直売所、レストラン、ホテル、ホームページの直売があります。
製品の企画については、事業シーズ、顧客ニーズの発掘があって、販売企画があって、すぐにプロジェクトを立ち上げます。製品企画の大きな特徴は、まずプロジェクトを立ち上げることと、そのプロジェクトに対して原則パートナーにも参加してもらうということです。サンプル品をただ製造するだけではなくて、マーケティングプランを一緒につけて提供します。
テストマーケティングがオーケーであれば、製品化を検討して製造開始して販売をします。お客さんからのシーズなりニーズを発掘して、スピードをもってお客さんにフィードバックすることをすごく重視しています。
知的資産経営から経営戦略構築まで、どういう背景があったかということです。この企業は2001年に経営の危機を迎えています。まず、中堅のB社が設備投資して工場を一新して、ソースの品質を大きく向上させました。それから中堅のC社が、自分たちの営業している地域に営業所を開設して、営業マンを入れて販売網を強化しています。
もう一つがBSE問題の発生です。今まで使われていたソースの原材料に問題はなかったんですけれども、そのソースをかける食材の消費が減っていきますので、おそらく自分たちのソースの市場も縮小していくだろうと予想されました。
こんな中で自分たちのハギンズ・ヤングソースの競争優位性は減少していきますし、市場が縮小していく。こういった場合の対応策として普通、経営のプロの人たちは、設備投資してさらに品質を向上させる、あるいは営業マンを増員して販売力を高める、原材料を見直して原価率減少を図るかという対策を立てるんじゃないかなと思います。
このときも経営陣と外部専門家で協議していったんですけれども、設備投資については、当時のBSE問題の背景があって、銀行から融資がおりなかった。また資金を投下してもそれを回収するのは困難だと見込まれました。営業マンを増員するにしても自分たちのところで専属の営業マンがいなかったので、いくら増やしても営業のノウハウは不足しています。原価を改善しようにも材料がだんだん値上がりしてきたということで、一般的な対応策がとれませんでした。
一方で、現場の社内ミーティングで、地域に自分たちのマニアックなファンが多いということが自社の強みとして把握されていました。自分たちのソースのファンがホームページを開設していたり、ファンクラブがあったりとかマニアックなファンが多かった。あるいは過去に販売した期間限定の企画ソースが大好評だった。
もう一つはベテラン社員から上がった声で、創業時から、経営資源がそろっていない中で自分たちで試行錯誤でいろんな形で何とかしてきたということです。あるいは社内に一体感があって、何かあれば全員が協力を惜しまない、あるいは国産原材料を仕入れて食材が安全であるとか、あるいはトマトピューレの製造、スパイスの調合まで自社でやっているという声があった。
このとき創業者は既に病院でほとんど意識がなく、経営は2代目にバトンタッチされていたんですけれども、こういった現場の声を頼りに経営戦略の構築を進めていきました。
まず、SWOT分析の変形版で、自分の価値、持っている資産が何なのか、お客さんがどう変化するのか、環境がどう変化してるのか、ハードの課題は何なのか、ソフトの課題は何なのかを把握しました。お客さんの変化としては、当然狂牛病がありましたので、国産原材料に関心が高くなる、それから内食市場が増加していく、地産地消の意識が出てくるということがあります。
ソフト関係の変化は先ほど言ったように市場が縮小するとか、競争が激化してくることです。自分たちの課題もあります。ハード面は、年間生産力とか製造ラインそれからコストダウンの展開があります。
こういった中で自分たちの資産は、先ほど言ったように地域での知名度や、トマトピューレ及びフォン(だし)の製造ノウハウ、スパイスの調理ノウハウ、国産原材料、一体感のある風土と創意工夫の精神が自分たちの強みとしてあります。課題としては、こういうノウハウは属人化されていることや、売り上げが特定の製品に依存していることです。
また、お客さんの求める価値としては、地域のオリジナルブランドであることや、本格志向のおいしさ、今までにない新しさ、あるいは食の安心・安全、あるいは製品にまつわる情報とか知識ということが挙げられます。
この自分たちハギンズ・ヤングソースの資産は自分たちが今までの業歴の中で培ってきた資産であって、模倣困難です。大手企業とか中堅B社とか中堅C社にまねができません。これが強く顧客価値と結びついたときにこのハギンズ・ヤングソースの大きな強みになります。ここで企業の方向性が決まります。ちょっと前に戻りますけれども、これが一般的なSWOT分析とは違う考え方で、自分たちの独自資産が何なのか、そこに顧客価値をどうやってつくってきたのかを考えていくわけです。
このようなことから競争戦略を考えました。ソースをポジショニングマップ上、高級志向か大衆志向にするのか。大手メーカーのように原材料を抑えて、1つが250円というソースをつくるのか、あるいは原材料とか製法にこだわった高級志向のソースをつくるのか。ほとんどの中小企業が大衆志向であるか高級志向であるかといった場合には、高級志向のほうにシフトをしていきます。
このときにもう一つつくったのが、汎用か特殊かという軸です。このソースは、一般的なソースでいろんな料理に使われるソースなのか、あるいは特殊特別な料理に使われるソースなのか、こういった分け方をしました。
当然、市場競争の激化や縮小が予想されましたので、やったのは新たに特殊で高級な志向のあるソースの市場を創造することです。地域住民向けにそのときの話題にマッチした、地域の食材を使った製品をタイムリーに提供する、バラエティーに富んだ品質の高い製品を地域に提供する。このときに重視したのがスピード感です。地域の食材やそのときの話題に応じて、タイムリーに市場に製品を投下することです。
次のような戦略のシナリオをつくりました。既存のソースをベースにさまざまな種類のソースを開発して、新たな市場を創出するわけですけれども、そこでハギンズ・ヤングソースブランド認知を確立して、既存の市場でも競争優位性を得たい。ここのところでしっかりマーケットを築いて地域住民に認知されることで、この市場では逆にブランド──顧客ロイヤルティーを獲得して勝負する、これがハギンズ・ヤングソースの戦略です。
戦略目標は新市場を創造することと、地域ナンバーワン・ブランドを確立することです。売上高は既存の5億円プラス新規1億円で計6億円を目指します。販売チャネルのシェアはスーパーマーケット20%、農産物直売所60%としました。まず新市場の創造と地域ブランドの確立という目標を立て、それに基づいて売上高とシェアの数値目標を設定しました。
その作業に当たっての戦略上の課題として、果たして経営ビジョンは共有されているのか、我々の製品開発力とは何か、特に多品種少量生産に向けてビジネスプロセスを変えないといけないのではないか、あるいは製品を開発するだけのデータベースがあるか、ほんとうにブランド力は我々がコントロール、もしくは影響を与えることでつくられているのかを考えないといけなかったわけです。
こういうふうに自分たちの独自資産を利用して顧客に価値を提供しようという戦略目標や課題があるわけですけれども、これを実現するのは有形財ではない。設備、人員、材料という有形財を増やしましょうというわけではなくて、もっと違うものです。戦略達成には、見えない資産、無形財が重要になってきます。ビジョンの共有や製品の開発力地域ブランド力、こういったものを自分たちで育てることで戦略目標が達成できます。
こういった中でハギンズ・ヤングソースは、従来の有形財中心の経営手法だけではなくて、競争優位の源泉となる無形財の新しい知的資産経営の手法を導入しました。従来の経営手法は、どうしても人とか設備とか金にこだわってしまいます。ほとんどの経営戦略が実行段階で経営資源をどう調達しようかだけに終始して、大体5S運動とかコスト削減活動、あるいは営業強化活動だけで何とかその場をしのごうとします。目に見える数値にこだわるわけです。
一方、新しい経営手法は人的資産、構造資産、関係資産に着目して、主な活動内容は新製品の開発をしたり、ビジネスプロセスを改善したり、ブランディングを進めていったりします。このようなことが違いとして出てきます。
戦略実行に必要な見えない資産の把握で、まずここでやってきたことは企業の沿革、戦略目標、顧客価値から見えない資産を抽出していきました。人に属するもの、組織に属するもの、関係に属するものです。
まず企業の沿革、歴史を詳しく見ていきます。創業当初からどういうことがあったのか。企業には、必ずトラブルが発生したり、あるいは環境変化に対応すべく一生懸命やってきている歴史があって、そういう中で見えない資産が生み出されていっています。
それで出てきたのがこちらです。最初、英国風のウスターソースを売り出したわけですけれども、結局これが全く売れなくて、日本人向けに味つけしたソースを生み出したという創意工夫です。それから伝統的な製法を守り続けた技術ノウハウやチームワークがあります。こういうものが創業の時点でありました。
ビジョン共有については後でご説明しますが、これが若干不足している見えない資産です。ビジネスプロセスや知識センター、それから地域ブランドやパートナーシップ、こういったものがハギンズ・ヤングソースの現状の、もしくはこれから必要とされる見えない資産です。こういったことを抽出していきます。
人的資産について、通常、三つのリソースを考えるわけですけれども、新しい市場を開拓する積極性、創造性、総合力としました。新製品開発のプロジェクトが土台になるわけですけれども、創造性は新製品開発の提案力です。積極性はその人の持っているバイタリティー、行動力です。異分野のことにもどんどんチャレンジする、失敗をおそれないかどうかです。もう一つが総合力で、特定の専門的な知識に偏るのではなくて、いろんな業務のことを幅広く知っているかどうかです。
それからソースづくりに関する業務の蓄積、業務の習熟度と専門性。それからチームワークです。リーダーシップ、コミュニケーション能力、目標達成意識を人的資産として取り上げています。
次が構造資産です。ビジネスプロセスや知識伝達、ビジョン共有です。この会社の場合、人的資産については自分たちなりに創意工夫はできているし、技術ノウハウも蓄積されているし、チームワークもありました。ただ、この中で出てきてなかったのが、こちらの構造資産の分です。ビジネスプロセスは、今まで伝統的な製造方法を守っていて、品質の維持ができているんですけれども、新製品開発のスピードがなかなかなくて、これが一つ課題です。
それからもう一つは知識センターです。原材料の加工技術、スパイスブレンドのレシピ等ソース製造に関するデータの蓄積と活用です。どうしてもそれまでのノウハウが属人化して特定の人の頭の中にあったので、これをしっかりと文書化してまとめないといけません。
もう一つがビジョンの共有です。実際に、毎朝手帳を開いて経営理念について説明しますけれども、それだけではやはり伝わっていない。企業の全体像や背景があって、それを全部従業員に伝えないと、やはりビジョンというのは共有されない。こういったビジネスプロセスと知識センターとビジョンを共有する風土、構造資産で必要ということが抽出されました。
関係資産については地域ブランド、その地域に愛されるブランドであったということで、地域住民への認知度を上げて地域住民の顧客のロイヤルティーを獲得しなくてはいけない。それから、通常の製品供給だけではなくて、新製品の開発、イベント開催などウィン・ウィンで新たな取り組みに協力するパートナーとの関係が必要です。この会社はスパイス会社や合同青果の会社と長い取引があって、単に商品を卸したり仕入れたりするだけではなく、特に以前企画製品の開発をしたときに一緒に取り組んだ背景がありました。そのパートナーシップも我々の財産としてとらえました。
こういった見えない資産の価値創出プロセスとして書いたのがこちらです。それぞれ人的資産は黄色で、構造資産は青で、関係資産はピンクであらわしています。それが顧客価値にどう反映しているのかを示したものがこちらです。
まず、価値創出としてのエンジンで一番重要視されたのは、やはりビジョンを共有することです。会社がどこの方向に向かっていくのか、単に数字、文書あるいは営業成績の羅列だけではなくて、しっかりとストーリーをつくって従業員に説明をします。イラストとか、図表とかを用いて従業員にしっかり説明してビジョンを共有します。
それと人材のコアとして出てきたのが、チームワーク、それから創意工夫の精神、技術ノウハウです。こういった創意工夫が、ビジネスプロセスそして企業の知識として残留していく、あるいは、知識センターとして残留していきます。このような仕掛けをつくっていきたい。この人材のコアの価値を創出する手助けとしてパートナーシップがあります。その結果生み出される顧客価値が地域ブランドです。
このような形でハギンズ・ヤングソースがお客さんたちに価値を提供する中で、どういう見えない資産が関係しているかを一つの図にあらわしました。このように見えない資産がネットワークをつくって価値を生み出しています。
ここで最初にこの企業がやったことは、新製品開発への取り組みです。これが見えない資産の強化につながります。まず、農産物の直売所向けに10種の新製品の開発に着手しました。
先ほど企業が活動して行く中で情報がある程度蓄積されていくことを説明しましたけれども、この情報は日々、同じルーチン業務をしていくだけではなかなか当然蓄積されていきません。昨日も今日も同じことをやっているだけでは蓄積されていかないし、もう一つは働く従業員たちがそれを意識しない限りは蓄積しません。
これを蓄積するためにはどういうことをするかというと、まず一つがいわゆる少々の無理をする、今までやったことのない無理をするということです。もちろんリスクが許容できる範囲です。これをオーバーエクステンション戦略、背伸び戦略と言います。
こういった少々の無理が、見えない資産の蓄積を促進していきます。このときにやったのが、新製品10アイテムを開発しようということで、それによって創意工夫とか、ビジネスプロセス、知識センター、ビジョン共有といった見えない資産の蓄積が進んでいきました。
最初にやったのがビジョン共有で、企業のビジョン・価値を共有するためのレポートづくりをやりました。従業員が参加をして、ビジョンや価値創造プロセス、戦略目標、重要な見えない資産についてのレポート作成、これによってチームワークとかビジョンの共有などの見えない資産を強化していきます。
皆さん、わかることはどういうことか考えたことはありますか。わかるというのはまず全体像があって、その全体の構成要素が何であるのかがあって、その構成要素はどう構造化されているのか、その構成要素がどのような刺激でどのような振る舞いをするのか、これは構成要素の摘出、構造化、指導という形であらわされますけれども、これが把握できて初めて人間はわかったと感じるわけです。
大体中小企業で働いている従業員、あるいは大企業で働いている人間でも会社の全体像がわかっていない。会社がどういう構成要素でできていって、どのような構造でどのような価値を創出しているかが、ほとんどの従業員にわかっていません。
結果として、文書、数値だけで何とかしてあるということがよくあります。経営理念とか事業計画とかを伝えるわけですが、全体像、経営の背景が伝わっていないので、えてして数値がひとり歩きする。売り上げ5%アップとかコストダウンとか、えてして数字がひとり歩きします。
ほとんどの場合、自分たちの業務という一部分だけを認識していますので、ほとんどの場合、広がりません。やはり、従業員の人たちに自分たちの経営、価値創出のプロセスはこうなんですよという体系を教えることで全体像がわかります。知識、仮説、行動、検証で自分の業務に当てはめて考えることができます。会社のビジネス・モデルを理解しているということです。
従業員向けの経営レポートは、すごく重要になっていきます。自分たちのしている仕事はこういうことで、自分たちの会社の強みはここなんだ、ではこういうことをすればいいんだということが従業員たちが自分たちでわからなくてはいけない。従業員が自分たちで経営的な考えで判断して行動できるようになるためには、しっかりと理解させてあげることがすごく重要になってきます。このようなビジョン共有が一つです。
次に新製品開発の基本フローを作成しました。ここでは新製品の企画リーダーを採用しました。これは女性の中途採用の方です。どうしても男性では開発プロジェクトの際に発想に限界がありましたので、女性を採用しました。また、新製品を開発するごとに開発メンバーを固定するわけではなくて、プロジェクト制でメンバーをその都度決めました。
新製品の開発はワークシート、お客さんのターゲットは何なのか、ニーズは何なのかという基本的なフレームワークを決め、ワークシートを作成して、業務が特定の人に偏らないようにジョブローテーションを導入しました。その過程で新製品開発過程やレシピをデータベース化するためのフォーマットを決めました。
ここでは製品開発工程を簡素化していって、話題性やネーミングを重視して新製品開発を進めました。こういった中で強化された見えない資産は、創意工夫とか、チームワークとか、ビジネスプロセスとか、知識センターです。
次に、生産プロセスの革新です。旧来型の生産プロセスが、最初から処理まで工程が一気通貫だったんですけれども、製造工程を5つに分けて管理することにしました。価値を生み出すところは上流工程です。野菜を丁寧に前処理したり、あるいは野菜を蒸し煮するときの温度、あるいは統合するときのブレンドプロセスの二つが自分たちが価値を生み出しているコアの技術なので、ここに集中しようということです。
熟成とかろ過とか充てんは基本的に事故が起きなければいいから、アウトソーシングできるところはアウトソーシングしましょうということになりました。熟成工程以降をアウトソーシングしたりとか、あるいは生産管理システム──製品ごとにしっかりと原価管理ができるようにしました。
もう一つは総合の部分で、しっかりとデータベースをつくって、データを保存するようにしました。こういったことで技術ノウハウとかビジネスプロセスとか知識センターといった見えない資産が強化されました。
ほかにもチームワークで、改善提案運動を取り入れました。これについては自動車会社で大変進んでいますので、業界OBの指導でリニューアルしたりとか、知識センターとして、先ほどの製品開発Q&Aデータベース、それから製品レシピで新データベースを作成しました。
パートナーシップについては、製品開発への参加をパートナーの方に依頼して、製品の情報提供や相手が提案してくれた場合のインセンティブを規定しておきます。このような形で他の見えない資産の強化に取り組んでいきました。
あとマネジメント・システムの取り組みです。日々の業務で人的資産、構造資産、関係資産の蓄積ができているかをしっかりと担保するために、例えば、新しい市場を開拓する創造性、積極性、総合力という観点から、新製品の開発力、行動力、総合的業務知識を促進もしくは新しく開発する。実際には、新製品の開発プロジェクト、企画・改善ミーティング、それからジョブローテーションを活用していきます。
このようにそれぞれの見えない資産の資源となるものを決め、その資源を強化するための活動をし、その活動の評価を行っていきます。それに関する資料がこれです。創意工夫を新製品開発力で見る場合には、新製品の粗利益額だとか、プロジェクトに出た場合には、それにかかった平均時間数とか平均コスト、評価は発売された新製品の件数で行います。こういった点について、上半期と下半期に分けてそれぞれを数値化してはかります。
あるいはビジネスプロセスといった場合には、新製品の開発のスピードと高品質の維持を実現できるプロセスという観点で、柔軟性とかスピードとか正確性を見ます。
ここで柔軟性といった場合にはビジネスプロセスをどうモデリング、つまりビジネスプロセスをどうカウント、手順化するかで、このように資源が柔軟性といった場合には、プロセスのモデリング作成とか改善されたプロセスのモデリング、指標はモデリングされたビジネスプロセスの割合とか、作成されたプロセスモデリングの本数とか、モデリング作成にかかるコストです。こういったことを決めていきます。
実際にこういうのを決めていくのは最初のうちは大変ですけれども、これをある程度ルーチン化していくことで日々の指標として上がってきます。経営者の方はこれを一つの意思決定情報としてもとらえることができます。もちろん現場を見なくていいわけではなくて、見えない資産が日々の業務活動を通じて蓄積されているかどうかを確認ができるということで、見えない資産を評価するための活動は通常のルーチンの中に取り込んでいくことが必要です。
この会社では、知的資産経営の結果として、2004年、売上高2.8億円、25種の新製品を市場に投入するという戦略目標を達成して、高い営業利益率を実現しています。なおかつ、既存市場の売り上げも維持でき、地域住民にブランドの認知が向上されました。こちらのほうで、新市場を開拓することで、地域住民のブランド認知が向上していって、既存の市場でも競争優位を獲得することができたということです。
今後の展開として、ここに書いていますように、仕入商品の自社ブランド販売を目指します。自分たちのブランドができましたので、ある村の協同組合から商品を仕入れて、自分たちのブランドで販売をすることが一つです。それと製品企画部を設けて、食品関連会社からソース開発の依頼を受けた場合に、そのソースを開発してサンプルとレシピを一緒に提供します。これは全国向けのビジネス・モデルです。
基本的にハギンズ・ヤングソースの場合は地域の住民をお客様にしているわけですけれども、その自分たちのドメインを守りつつ展開するための手法として、技術ノウハウを活用して全国の食品関連企業向けにそのような新しいサービスを開発しました。
こういったところでは、技術ノウハウとかビジネスプロセス、あるいはブランドとか見えない資産をうまく活用することで、次のビジネスチャンスを獲得していってます。有形財の投資ではなく、見えない資産の活用です。
以上、一通りハギンズ・ヤングソースの経営手法ということでご紹介しました。
これを先ほどフォーマットで説明した報告書の形にまとめたのが知的資産経営報告書と言われるものです。今日サンプルは用意していないんですけれども、会議所の案件で今1件で作成中なので、皆様にいつかお見せできるのではないかと思います。
価値創出プロセスには見えない資産が必ず存在します。どんな企業でもしっかりと経営をしていれば見えない資産というのは蓄積されています。企業の沿革やビジネス・モデル、顧客・現場の声から見えない資産を把握することが必要です。
その上で、お客様にどう価値を提供するか、これが競争優位とか、変化対応力の源泉となってきます。最後に見えない資産の活用を報告書にまとめて公表していきます。こういったことが見えない資産のさらなる強化や企業価値の向上につながっていきます。
以上のように、どのような中小企業であっても、活動する中で見えない資産が蓄積されています。ただ、みんな、なかなかそれに気づかないんです。この見えない資産をもう1回自分たちの中で整理して、まとめて、お客様の価値にどうつながっていくのかをベースに経営戦略、企業の方向性を構築しなければいけません。また、それをレポーティングして、やはり伝えていくことでさらに企業価値は高まっていきます。
現在は知識社会です。今回は製造業を例に説明しましたけれども、基本的にITサービスとか接客サービスなどのサービス産業でも基本的な考え方は一緒です。人的資産があって構造資産があって、関係資産があってお客さんに価値を提供する。あるいは法人向けの企業でも同じです。こういった価値を生み出すための見えない資産がしっかりと把握できているかどうかが、環境変化が激しい今後を生き残っていくための経営手法として重要になっていきます。
今日は2時間、いきなり新しい話で最初は面食らったかもしれませんけれども、こういった経営手法が今後必要になってくることをご説明しました。
以上で終了します。どうもありがとうございました。
添付資料(印刷用にご利用ください)
- 20110126report.pdf (595.3 KB)
講師:原田 健(はらだ けん)
(中小企業診断士・Harada Consulting Office 代表)
ロジスティクス会社、コンサルティング会社を経て、30歳で独立。以後、様々な業種で中小企業経営の現場支援を行なう。情報活用ベースの経営戦略構築を得意とする。- 日時・場所
2011年1月26日(水)
14:00~16:00福岡商工会議所 505号室
博多区博多駅前2-9-28
JR博多駅博多口より徒歩約10分
地下鉄祇園駅5番出口より徒歩約5分
駐車場は有料の立体駐車場がございます(30分100円)















